本研究は、安全性を最優先に考慮した新規粘膜アジュバントの研究開発である。そこで既存の医薬品に着目し、アジュバントの多くが自然免疫を刺激する作用を持つことから、肥満細胞に作用することが知られているポリペプチド系抗生物質であるポリミキシンB(PMB)およびコリスチン(CL)を選択した。 C57BL/6マウスにOVAとPMBまたはCLを経鼻免疫したところ、アジュバント投与群では、血漿中および粘膜分泌液中でOVA特異的抗体価の上昇が確認され、全身および粘膜組織においてもOVA特異的抗体産生細胞が観察された。即ち、ポリミキシン類が粘膜アジュバントとして粘膜および全身に抗原特異的抗体を誘導できることが示唆された。 さらに、作用機序を検討するため、ポリミキシン誘導体によるアジュバント効果を測定した。ポリミキシン誘導体としてポリミキシンBノナペプチド(PMBN:脂肪鎖を切断した環状ペプチド部位)、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム(CLMS:正の電荷を負の電荷に変化)を用い、OVAおよびポリミキシン類縁物質を経鼻投与後し、OVA特異的抗体価を測定したところ、粘膜分泌液のOVA特異的IgA抗体価は有意にPMBN、CLMSともに減少していた。以上より、PMBおよびCLの粘膜アジュバント活性には疎水性である脂肪鎖と分子の正の電荷が関与していると推測され、PMBおよびCLの陽イオン性界面活性剤の構造が重要であると考えられた。 粘膜ワクチンは生体が有する全身免疫と粘膜免疫の両方を効率よく誘導できる点から非常に有用であり、次世代ワクチンとして期待されている。ポリミキシンBはポリペプチド系抗生物質として既にヒトにおいて局所および経口投与で安全性が確立されており、新たなアジュバントとして粘膜ワクチンに応用できる可能性があると考えられた。
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