研究課題/領域番号 |
23790545
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
木村 彰宏 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (20533318)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ダイオキシン受容体 / リステリア / マクロファージ / リステリオリジン O |
研究概要 |
23年度の研究期間に、マクロファージにおいてダイオキシン受容体であるAryl hydrocarbon receptor (Ahr)がリステリア感染による免疫応答を制御していることを解明した。マクロファージにリステリアを感染させるとAhrが誘導され、Ahrはリステリア感染によるIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を抑制していた。 24年度はAhrがリステリア感染時におけるマクロファージの細胞死を抑制する作用があることを発見した。実際にAhrが発現しているマクロファージ様細胞株(RAW/Ahr)ではアポトーシスの指標の一つであるcaspase-3の活性化が抑制されていた。そのメカニズムとしてリステリアに感染したマクロファージにおいてAhrはapoptosis inhibitor of macrophage (AIM)を誘導することで細胞死を抑制していることが示された。また一方でAhrはリステリアが放出する毒素(Lysteriolysin O:LLO)の産生を抑制することも明らかになった。LLOは一酸化窒素(NO)により産生が抑制されることから、Ahr欠損(KO)マクロファージとコントロールのwild type (WT)マクロファージにおいてリステリア感染後のNO産生を比較してみた。その結果、Ahr KOマクロファージではWTマクロファージに比べてリステリア感染後のNO産生が有意に抑制されていた。Ahr KOマクロファージではNO産生が抑制されていることから、リステリアによるLLO産生が強くなっていることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Ahrはリステリア感染によるIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を抑制していた。しかしながらAhr KOマウスではリステリア感染後、WTマウスに比べ各臓器でリステリアの菌数が異常に増え全ての個体が死亡している結果が得られていた。Ahr KOマウスではリステリア感染後、本来ならば細菌を殺す作用のある炎症性サイトカインが多く産生されているにも関わらず、生体内で菌数が増えAhr KOマウスが死亡するという現象の原因は不明であった。しかし今回Ahrがマクロファージにおいてリステリア感染による細胞死を抑制するはたらきを発見した。この結果はAhr KOマウスではリステリアを処理するマクロファージが感染後死んでいく結果、Ahr KOマウスにおいてリステリアに対する感受性があがることを意味している。 また今回Ahrがリステリアが産生する毒素のLLO産生を抑制することも明らかにした。Ahrはリステリア感染においてマクロファージを細胞死から守っているだけでなく、毒素の産生を抑制していることも示された。以上のことからAhrは細菌感染に対する免疫機構において非常に重要な分子であることが示され、これらの結果は当初予想されていた細菌感染におけるAhrの機能よりもはるかに大きなものであることから、当初の計画以上に研究が進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回Ahrがリステリア感染による細胞死を抑制している原因がAIMの誘導にあることを発見したが、AhrがどのようにしてAIM誘導に関与しているかは不明である。これまでに核内受容体のリガンドがAIMを誘導することが報告されているのでAIM誘導において核内受容体とAhrとの関連を調べる。それと同時にAhrが直接AIMを誘導している可能性も考慮し、AIMのプロモーター領域にAhr結合配列がないか調べ、もしあればChIPアッセイなどでAhrが直接AIMのプロモーター領域に結合してAIM発現に直接関与しているのかを解明する。 また今回Ahrがリステリア感染に対する免疫応答において重要な因子であるかとが示されたことから、Ahrリガンドを用いてリステリア感染による死亡や毒素(LLO)の産生を抑制できるか検証する。リステリア感染による死亡や毒素(LLO)の産生が抑制されれば、自然界に存在するAhrナチュラルリガンドを用いた感染症に対する新たな治療法にも結びつく。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度と同様にマウス購入や研究試薬に最も多くの研究費を使用する。ただし24年度はAhrリガンドによるリステリア感染に対する感受性を下げる効果の検証があることからマウスの購入費が23年度よりも増加することが考えられる。ChIPアッセイに必要な抗体やin vivoに用いるAhrリガンドなどは23年度には使用していないので、24年度に新たに購入する必要がある。また得られた研究成果を発表するために学会に参加するためそのための旅費についても本研究費から使用する予定である。
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