研究課題
我々はこれまでに、mTORC1(mTOR complex 1)が樹状細胞(DC)のIL-10発現を正に制御していることを明らかにした。IL-10は炎症の抑制を促すサイトカインであり、その産生異常は炎症性腸疾患の原因の一つと考えられており、特に腸管に存在するDCやマクロファージが産生するIL-10が腸炎の発症に重要であることが示唆されている。そこで、DCにおけるmTORC1-IL-10が腸炎発症に及ぼす影響を明らかにするため、DC特異的にmTORC1の機能を欠損させたマウス(Raptor-DCKO)を作製して腸炎モデル実験を行なった。Raptor-DCKOマウスの解析を行ったところ、mTORC1は細胞の成長や増殖を促進する分子であるにもかかわらず、野生型に比べてRaptor-DCKOマウスの脾臓および腸管の一部のDC集団では、むしろ細胞の数が増えていた。Raptor-DCKOマウス由来のDCでは、細胞の増殖・生存に関わる分子であるAktが活性化しており、これはmTORC1によるPI3K-Aktシグナルに対する負の調節制御がなくなったことが原因であり、活性化Aktにより細胞数の増加が引き起こされていると予想された。また、野生型に比べてRaptor-DCKOマウスの腸管CD11c+CD11b+DCでは、IL-10産生の低下とCD86の高発現が観察され、活性化状態にあることが示唆された。そこで、デキストラン硫酸塩を用いた腸炎モデル実験を行ったところ、野生型に比べてRaptor-DCKOマウスではよりシビアな腸炎が観察された。以上のことから、DCにおけるmTORC1はIL-10産生制御を介して腸炎の発症抑制に貢献していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究目的は、樹状細胞におけるmTORC1によるIL-10産生制御機構の解明と、樹状細胞のmTORC1が腸炎発症に置ける役割を明らかにする、といった二つに分けられる。前者に関しては、未だmTORC1とIL-10を結ぶ分子の同定には至っていないが、後者に関してはmTORC1が腸炎発症に抑制的に関与しているということを明らかにし、成果を論文に発表しており、目的を達成したといえる。
今後は、mTORC1によるIL-10発現制御の分子機構の解明を目指す。当初の計画どおりIL-10プロモーターを対象としたゲルシフトアッセイやshRNAiによるmTORC1下流分子のノックダウン法を用いた実験のみならず、新たに野生型およびRaptor-DCKOマウス由来のDCを用いたDNAマイクロアレイ法を用いた実験を行い、多方面からの解析を行うことで研究目的の達成を図る。
今年度同様、研究費のおよそ半分は実験補助員の謝金として、残りを消耗品費や交通費にあてる。今年度の繰越金はない。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
The journal of immunology
巻: in press ページ: -
Cell reports
巻: 1 ページ: 360-373
10.1016/j.celrep.2012.02.007
http://www3.kmu.ac.jp/bioinfo/