本研究は、今後の大学等技術移転に関する合理的な仕組みについて、医薬・医療分野の特性を踏まえて多面的に検討すること、特に、基礎研究成果からProof of Concept(POC)獲得にいたるまでの実用化プロセスにおける現状と課題を検討することで、近年、その重要性が議論されるようになってきているトランスレーショナルリサーチ(TR)のあるべき姿を考察することを目的とする。 日本国内のTR実施状況について、その基礎的情報として特許情報のデータベース構築を試行し、「新規性喪失の例外規定」の適用を受けた特許に関する企業と大学の比較解析を行うとともに、TRにかかわる研究者、実務家等とのインタビューや意見交換、知財教育活動を共同で行うことにより、国内TR実施状況の把握に努めた。 諸外国のTR実施状況について、平成23年度にシンガポールで現地調査を行い、大学・研究機関、臨床試験実施機関、政府機関、CROを訪問し、シンガポールのTR政策についてヒアリング調査を行った。研究代表者は2006年にも同様の訪問現地調査を行っており、5年前との比較から、臨床試験実施機関の形態が、その国でのTRの進め方に大きな影響を及ぼしているとの知見を得た。その結果を踏まえて、日本における臨床試験実施機関(特にFirst in Humanを行うことを想定して第1相試験実施機関)に関する実態調査を企画し、平成24年度には、東京、大阪、北九州にある臨床試験実施施設において、約500名のPhase 1試験被験者(健常成人)に対する新規技術の臨床試験に関する意識調査等のアンケート調査を行い、日本の現状と課題を検討した。 さらに、国際学会参加により、TRに関する最新動向の情報収集をおこない、臨床データに対する規制、個人情報の保護の観点や、知的財産の取り扱い等について、今後、国内制度を整備する必要性を認識した。
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