研究課題
睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を中心とした睡眠呼吸障害は、交通事故や産業事故などに加え、循環器系疾患の発生リスクを増大させることから、二次予防の面で非常に重要な疾患である。しかしながら、症状を自覚していない患者に対し、積極的に診断・治療することについては議論がある。本研究の目的は、睡眠呼吸障害のスクリーニングによる患者の早期発見・治療が、交通事故や将来の心血管疾患の発症の減少といった社会的にもたらす効果を費用効果分析により検討することである。本年度は、複数の健康保険組合の協力を得て構築されている診療報酬請求書データを、使用許可を得て解析した。2009年10月~2010年9月の診療報酬請求書データのうち、30歳以上の対象を母集団とした。母集団の人数は368,732人、そのうち男性は50.8%であった。年齢構成は、30代が43.2%、40代が29.0%、50代が18.2%、60歳以上が9.6%であった。母集団より新規にOSASの診断・治療を開始した患者を抽出した。新規患者の定義は、過去1年に当疾患の診断および治療を受けてないこととした。対象期間内に、OSASの診断・治療を開始した対象者は、529人(男性86.8%、平均年齢47.6歳)であった。対象となった患者をその後2年間追跡した。2年間の月あたりの平均医療費は26,380円/月であった。また、OSAS患者と性・年齢をマッチングしたコントロール群を設定した。コントロール群での観察期間2年間の月あたりの平均医療費は10,059円/月であった。OSAS患者は、コントロール群と比べて有意に医療費が高かった。しかしながら、今回医療費を算出したOSAS患者の中には、治療を継続していない患者が多く含まれている。今後より詳細な解析を行う予定である。同様の解析を高血圧、脳卒中、心筋梗塞について実施した。
2: おおむね順調に進展している
効用値の算出については、インタビュー調査を計画していたが、インタビュー調査では人数が小数になってしまうため、これまで研究者が実施してきた睡眠障害患者を対象としたQOL調査を用いて、効用値を推定するように、計画を変更した。調査データを用いることにより、研究の精度は高まると考えている。それ以外については、計画どおり、研究を進めている。
レセプトより算出した費用、QALYを用いて、スクリーニングを実施した場合と実施しない場合の1QALYあたりの増分費用効果比を推定する。ベースラインケースは50歳の男性とする。分析のhorizon timeは、n-CPAPの費用対効果分析に用いられている5年とLifespanの両方の解析を行う。一般的に推奨されているように、費用の割引率は3%とし、同様に効果も一年ごとに3%割り引くこととする。今回の主題であるスクリーニングは、その精度(感度、特異度)により患者の発見が異なる。そのため、精度においても感度分析を行う。また、診断の方法の違いについて費用が異なるため、感度分析を行う。スクリーニングで発見された対象に対し、PSG検査を実施するか、あるいはパルスオキシメトリ、簡易型PSGを実施した後にPSG検査を実施するかの判断のためである。また、割引率を1%~5%として感度分析を実施する。診断時の年齢や性別により治療の費用対効果が異なるかどうかに関する報告は非常に少ない。これについては、不明であるため、感度分析を実施する。また、本研究の分析で用いた既存のデータを用いた値(虚血性心疾患、脳卒中、交通事故の発症率、死亡率)については、95%信頼区間を用いて感度分析を行う。その他、効用値や費用に関してはプラスマイナス30%の値を用いて感度分析を行う。
今年度研究で用いた診療報酬請求書データベースの使用料の支払い手続きが遅れたため、次年度支払うことになった。そのため、今年度の予算に残金が生じた。次年度は、文献より収集したQOLデータを効用値に変換するプログラムに経費を必要である。また、レセプトデータベースの使用・抽出のために経費を使用する。その他、研究成果の公表のために学会参加、英文論文の校閲などに使用する予定である。
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