研究課題/領域番号 |
23790568
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
八田 太一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教務補佐員 (40598596)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | インフォームド・コンセント / 医師患者関係 / 医学教育 / ミックス法 / がん医療 / Shared Decision Making / 動機づけ |
研究概要 |
本研究課題では、臨床医に課せられた大きな使命であるインフォームド・コンセント(IC)をめぐる医師の成熟プロセスを明らかにするために、質的アプローチと量的アプローチを合わせたミックス法によって、化学療法を導入するためのICを観察する。平成23年度は、本研究グループが作成した『医療に関する達成動機尺度』の患者群における適応可能性を検討するために、質問紙調査([研究1:健常人を含む質問紙調査])のデータ収集を終えた。この質問紙調査では、健康な大学生群と職域検診で要精査となった労働者群とで同様の因子構造を持つことが確認され、患者群での適用可能性が示唆された。本尺度をIC前の患者に用いることで、がん患者の関心の持ち方による類型化が可能となり、ICを観察する際の視座として利用できると考えられる。一方、IC観察研究([研究2:医師と患者の物語を捉える研究]及び[研究3:医学教育に還元するための研究])では、ICにおける医師患者間相互作用と医師患者関係との関わりを明らかにし、医師と患者の物語が紡ぎ出されるプロセスを記述する。そして、そのプロセスでICに対する医師の内省がどのように生じるか、医学教育へ還元するための考察をおこなう。本年度はIC観察研究をより安全に実施するために、研究計画を再考し院内での協力体制を整え、本学の倫理審査委員会の審査を終了した。さらに、より多面的な観察と考察を可能とするために、IC観察を行う臨床心理士2名を雇用し、本研究グループの先行研究で得られたデータや考察を踏まえ、本研究演題の目的や視座を共有した。また、本研究課題の先行研究で得られたデータやIC事例について考察を加えて招待講演を行い、積極的に関連学会に参加・発表し情報交換を行った。さらに、本邦におけるICの歴史的変遷を概観するための文献調査について発表をおこない優秀演題にも選ばれた(日本臨床試験研究会)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は本研究課題を遂行するための準備として位置づけ、IC観察研究をより科学的かつ倫理的に実施するために研究計画を再考し、観察を安全かつ円滑にすすめるために院内の協力体制を整え、学内倫理審査委員会より承認を取得し、臨床試験登録データベースUMIN CTRに登録した。さらに、病院での臨床経験を有し本研究課題に関心を持つ臨床心理士2名が新たに研究メンバーに加わったことで、より多面的な観察と議論が可能になり、ICで生じる現象を捉えるための方法論的視座を研究計画に反映させることができた。同時に、質問紙調査ではデータ収集・解析を終え、患者群における『医療に関する達成動機尺度』の適用可能性を示唆する結果が得られた。その成果を関連学会にて発表し、現在、論文化を進めている。また、本質問紙調査で用いた構造方程式モデリングによる多変量解析は、このIC観察研究のような少数のサンプルサイズであっても適応可能な場合がある。申請者が新たにこのような方法論を手にしたことは、量的研究としての本研究課題の射程を広げ得ると考えている。以上より、本研究課題の目的を達成する上でおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年4月現在、院内倫理審査委員会よりIC観察研究への承認が得られ、観察対象患者のリクルートを開始した。IC観察研究では、本年度内に30例の縦断的観察を目標にしている。本院では一月あたりの対象患者は8名前後が見込まれ、本研究課題の先行研究での参加率や半年の追跡期間中の脱落を踏まえるならば、10月までに40例の患者登録が必要となる。このような観察スケジュールを踏まえ、同意が得られた対象患者のIC観察記録は漸次的に解析され、各個別IC事例を事例研究または累積的事例研究として関連学会等で成果を公表する。そのため、観察の機会を増やし、観察記録・逐語記録を作成する時間を確保し、グループ内で事例検討の場を設けるため、研究グループ内での役割調整や臨床心理士2名の勤務を調整する。また、平成24年度は、本研究課題の前提となる先行研究の成果や本質問紙調査で得られた成果を論文化する。そのために必要な情報を収集するために、関連学会・研修会などに積極的に参加する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は研究に必要な物品を揃えた。本研究課題を申請した当初、IC観察にかかる音声記録の逐語化を外部業者に委託する予算として平成23年度人件費・謝金を計上したが、IC観察研究をより安全に実施するための準備期間と位置づけ、ICをより多面的に観察し、より緻密な分析を可能にするために、2名の臨床心理士を雇用した。そのため、平成23年度の予算執行用途を大幅に変更し、繰越金として平成24年度に使用可能な予算として残した。平成24年度は上記のような推進方策をとり一定期間で多くのIC観察を実施する予定であり、150万円前後を人件費・謝金に計上する見込みである。また、本研究課題に関連する分野の識者を集め、本研究課題の方法論や視座を討論するためのシンポジウムを予定している。本シンポジウム開催に関連する開催費・謝金・旅費等として30万円前後を本予算より拠出する。その他、本研究課題に関連する学会・研修会などの参加費・旅費、書籍やPC関連機器の購入費、英文校正など論文化かかる費用、印刷などの雑費など、平成23年度の繰越分と平成24年度の予算を合わせて本研究課題を推進するために適切に使用する。
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