研究課題/領域番号 |
23790569
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 りょう子 大阪大学, 医学部附属病院, 助教 (20467559)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 鎮静 / 医療安全 / 小児医療 / 有害事象 / ガイドライン開発 / 教育方法 / 医療安全体制 / 国際比較 |
研究概要 |
本研究では、医療安全の観点から、教育病院における小児の鎮静の安全な実施のためのガイドラインを開発することを目的としている。 平成23年度には、小児における鎮静の有害事象について、国内の報告事例、インシデントレポート、及び鎮静実施・介助者への無記名アンケート調査結果の分析により、小児における鎮静の実施者あるいは介助者の半数以上が有害事象の経験を持ち、事象の中には心肺蘇生や気管挿管等の高度な対応技術を要するものが含まれることが明らかになった。根本原因には、患者のリスク評価等の個人の知識や技術に関する教育と、設備、実施者の資格や人員配置等の体制の2つの課題があると考えられた。 海外諸国における小児の鎮静に関する調査分析では、米国小児科学会、米国救急医学会、米国歯科医会、スコットランド・ガイドラインネットワーク及びフランス麻酔・蘇生学会において、それぞれガイドラインが策定されていた。これらのガイドラインには、設備、患者評価やモニタリング、退室基準について共通の規定が明示されており、すべてのガイドラインにおいて各施設におけるポリシーの策定が推奨されていた。これに加えて、米国小児科学会では独自に鎮静の目標深度が定められていた。また、ボストン小児病院及びマサチューセッツ総合病院における鎮静専任医師による鎮静実施体制、デクスメデトミジンを用いた呼吸抑制を伴わない鎮静方法、鎮静の有害事象調査の実施方法の詳細について情報を得た。さらに、ガイドライン開発に教育の側面が必要であることが明らかになったことから、シミュレーションを用いた多職種教育(IPE)シンポジウムに参加し、教育方法に関する情報収集及び意見交換を行った。 これらの成果に基づき、ガイドラインに含むべき教育内容・方法の開発に着手するとともに、鎮静の実施状況の把握を目的とする調査について、教育及び体制整備の両面に係る質問票を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度である平成23年度には、国内の有害事象の分析、及び諸外国の小児における鎮静に関するガイドラインの文献的検索、及び国内の医療従事者に対する質問票調査の準備を計画した。 国内における小児の鎮静に関する有害事象の分析については、当初予定していた国内報告事例、インシデントレポート及び院内救急事例の分析に加えて、鎮静実施者へのアンケート調査を実施しその結果を分析した。これにより、有害事象の発生状況及びその根本原因を明確にし、国内における小児の鎮静の安全確保のためには、教育及び体制整備の二つの観点が必要であることを明らかにした。 諸外国の小児における鎮静に関するガイドラインの調査については、3カ国5学会において策定されているガイドラインを比較検討し、その共通点及び相違点を明らかにするとともに、米国の施設におけるポリシーの策定と実施状況、及びその教育方法に関する調査を行った。 以上の成果から、鎮静の安全確保に係る教育方法について、その開発に着手するとともに、国内の大学病院における小児の鎮静の実施状況調査について、質問票を作成した。 以上から、本研究は、初年度における実施計画及び明らかにする事項を達成しており、当初の計画通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、平成23年度の研究成果に基づき作成した、鎮静の教育及び実施体制に関する質問票を用いて、各大学の医療安全管理者を対象とするアンケート調査を行う。本調査結果はデータベース化して分析を行い、国内の大学病院における小児の鎮静の安全確保状況及び課題を明らかにする。 さらに、これらの現況と課題について、海外諸国のガイドラインで小児の鎮静の安全確保のために求められる項目との比較分析を行い、国内の大学病院における小児の鎮静実施に際する安全確保のための要件を抽出し、小児における安全な鎮静の実施のためのガイドライン案の開発に着手する。ガイドライン案の開発においては、諸外国における人的及び設備上のリソースと国内の大学病院におけるリソースの差異を勘案するとともに、医療安全対策に必要なヒューマンファクターズの考え方を導入し、安全確保のために最小限の要件の抽出及び実施可能性に主眼を置く。 平成25年度には、平成24年度に開発したガイドライン案を、大阪大学医学部附属病院において、小児の鎮静を実施・介助する医療従事者を対象に試験的に導入する。ガイドライン案の医療従事者による評価及び遵守状況の調査を実施し、医療現場における適用可能性及び改変の必要性等について検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度における国内の有害事象に関する分析により、小児の鎮静の安全確保のためには、ガイドライン案に鎮静に係る医療従事者を対象とする教育的要素を取り入れることの必要性が示唆された。このため、米国における鎮静に係る情報収集及び研究打ち合わせに加えて、多職種に対するシミュレーション教育のシンポジウム(SSH-IPEシンポジウム)への参加及び諸外国の研究者との討論を行うこととし、当初の予定に加えてその参加費及び旅費を使用した。これに伴い、初年度購入予定であったコンピューターは、国内の大学病院を対象とする質問票調査の結果をデータベース化して分析し、諸外国の状況との比較を行う目的で、平成24年度に購入することとした。さらに、平成24年度には、これらのデータ保存のためポータブルハードディスク等の電子消耗物品が必要であり、また、研究推進に小児の鎮静、医療安全、鎮静の有害事象への対処に関する小児急性期医療やシミュレーション教育等に関する書籍を要し、購入予定である。 旅費については、国内で開催される学会(日本小児科学会、医療の質・安全学会等)において、研究成果の中間発表を予定している。さらに、ハーバード大学により開催される小児の手術室外鎮静に関する国際学会において、成果発表及び多施設における体制整備や教育に関する情報収集を行うために外国出張を予定している。 国内の大学病院における質問票調査の実施については、送付及び返信に係る通信費、及び質問票調査の関係資料の整理及びデータベースへの入力・整理作業についてはアルバイト雇用に関する謝金を要する。また、研究成果について論文発表を行うための経費も計上している。 以上の通り、これらの費目について、平成24年度の研究計画に沿って、計画的かつ適切に執行する予定である。
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