本研究は、小児における鎮静の安全な実施のためのガイドラインを作成することを目的とし、国内の有害事象の根本原因分析及び鎮静実施者への無記名アンケート調査を行い、患者のリスク評価等の個人の知識や技術に関する教育と、実施者や人員配置等の体制の2つの課題があることを明らかにした。さらに、諸外国のガイドラインの比較検討を行い、鎮静の安全確保のための重点的項目について、リスク評価、前処置(絶飲食)、モニタリング、緊急時対応の4点を特定した。国内のルールの整備状況については、国立大学病院において、成人と共通のガイドラインは4大学病院において整備されていたが、小児に関しては各診療科に委ねられていた。 諸外国における鎮静の実施・教育体制に関する調査では、実施体制は専門担当者の職種により麻酔科医から専門看護師まで5パターンに分類された。国内においては、リスク評価の詳細を定めハイリスク児を専門家に依頼する2段階システムがリソースの有効活用につながると考えられた。さらに、ガイドラインに沿った実施を支援するための教育のモデルコンテンツ(知識編、鎮静の注意点編)を作成し、知識編を612人、鎮静の注意点編を567人が受講し、知識が深まった(各97%、92%)、診療の役に立つ(各94%、95%)との評価を受けた。 教育コンテンツの評価を踏まえて、特定された4点の重点項目についてガイドライン案を作成し、評価を行った。42人中37人(88%)が有用と回答したが、22人(52%)がモニタリング担当者の配置が順守困難であると回答した。小児の鎮静の実施のためには、ガイドラインに個人の知識、スキル、手順を定めるにとどまらず、教育及び体制の整備が必要であることが明らかになったが、人員確保を含む実施体制の変更については、小児の鎮静が重要課題であるとの院内の共通認識の形成に基づく意思決定が必要と考えられる。
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