生殖補助医療の利用が増加するなか、日本では生殖補助医療を規制する法律はいまだ制定されておらず、その法制度化は、喫緊の課題となっている。特に、ドナーの精子・卵子・胚を用いる場合においては、生殖補助医療は、家族の在り方を大きく揺るがす問題となっている。また、海外では、生まれてくる子の福祉を優先すべきとの立場からドナーの匿名性を廃止し、子の出自を知る権利を認める国(州)が増えつつある。 平成23年度の研究では、オーストラリア・ビクトリア州の事例をもとに、生殖補助医療の法制度化における課題について、特に提供精子による人工授精に焦点を当てて、子の出自を知る権利の保障、ドナーからの子の情報へのアクセス権、シングル女性・レズビアン女性の生殖補助医療の利用等について、諸外国の法制度との比較・分析をし、整理を行った。さらに、本科研費研究最終年度である平成24年度の研究においては、その分析結果を踏まえ、ビクトリア州において2010年1月より施行されたAssisted Reproductive Treatment Act 2008(2008年法)の特性に焦点を当て、子、家族、そしてドナーの権利がどのように守られうるのかを、法律の指針となる原則に則して、旧法のInfertility Treatment Act 1995(1995年法)と比較して分析した。 生まれてくる子の福祉を最優先することを基本理念とし、世界に例をみない様々な先駆的政策を展開するビクトリア州の事例は、生殖補助医療のかかえる根本的な課題の解決に向けての一つの道筋を示す試みとして、今後の日本の生殖補助医療をめぐる政策形成において重要な意義を持つものであることを本研究によって示した。
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