近年、緩和ケア領域においても鍼灸治療が実施されているという報告が散見される一方で、鍼灸師側が多職種との情報共有に難しさを感じ、患者情報を十分に獲得できず末期がん患者のケアに難渋するという報告もある。こうした背景に基づき、本研究の目的は、末期がん患者への臨床実践を行う鍼灸師および情報共有の対象となる他医療従事者を対象として、とりわけ緩和ケア病棟を有する医療機関における情報共有の実態を調査することで、鍼灸師と他医療従事者間の適切な情報共有モデルのあり方を検討することにある。研究期間内に明らかにする要点は(1)緩和ケア病棟を有する医療施設に対して鍼灸師による鍼灸施術実施に関するアンケート調査を行い、その現状(実施施設数、鍼灸施術実施の状況)を明らかにすること、(2)緩和ケア病棟で末期がん患者に対して鍼灸施術を実践する鍼灸師、および医師・看護師などの他医療従事者を対象にインタビュー調査を行い、鍼灸師との情報共有のあり方の実態について定性的に明らかにすること、の2点である。平成23年度は緩和ケア病棟を有する施設を対象に、上記(1)の鍼灸師による鍼灸治療が実施されている施設数、および鍼灸施術の実施概要を明らかにした。その成果については、日本緩和医療学会(平成25年6月)にて報告した。平成24年度から25年度にかけて、上記(2)を明らかにするため、緩和ケアを実践する医療機関に所属する鍼灸師および他医療従事者計11名を対象にインタビュー調査を実施した。情報共有を行うための促進因子・阻害因子が抽出され、また職種間によって情報共有の方法や内容に対しての共通点・差異点がそれぞれ存在することが明らかとなり、今後の緩和ケアでの情報共有において提示すべき有用な知見が得られた。
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