研究概要 |
鍼灸臨床における有害事象(過誤・副作用)の現状を明らかにし、その有効な防止策を検討するために、整形外科医師を対象に無記名式のアンケート調査を実施した。対象は、平成23年5月現在、iタウンページの「整形外科」に登録された病院・医院・診療所13,225件(重複除く)とし、発送先は、対象から無作為に抽出した6,000件とした。発送は、東日本大震災のため平成23年10月初旬(岩手、宮城、福島を除く都道府県へ3,500件)と平成24年7月初旬(前記3県を含む残り2,500件)の2回に分けて行い、返信期限はいずれも発送後3ヶ月以内とし、送付および返信費用はいずれも調査側が負担した。本調査は、学内の研究倫理委員会の承認を得て行った(承認番号23-73)。調査項目は、回答者のプロフィル、過去5年において鍼灸による有害事象患者の診療経験の有無とその詳細、鍼灸の安全性に関する意見とした。回収率は10.7%(639/6,000件)、回答者の免許取得後年数は30±11年であった。鍼灸の有害事象の診療経験ありとの回答は132名、うち鍼や鍼通電による有害事象は、感染30名(関節炎12名)、伏鍼・折鍼24名、臓器損傷23名(気胸21名)の順に、灸では熱傷45名(I度熱傷5名、II度熱傷28名、III度熱傷6名)、感染(施灸部の化膿)12名の順に多かった。その他重篤な有害事象では、鍼による末梢神経損傷7名(麻痺2名)、不適応疾患への施術4名(がん2名、圧迫骨折1名、帯状疱疹1名)であった。医師の要望では、適切な感染防止対策(特に関節周囲)が26名と最も多かった。調査の結果、従来から注意喚起がなされている有害事象が多数上位を占めており、既存の防止策(特に感染制御)を徹底・強化する必要があると考えられた。また、教育・啓蒙のための新たな取り組みやこれらを評価するための継続的な調査が必要であると考えられた。
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