本研究は平成23年度に,JANIS(厚生労働省院内感染サーベイランス事業)データおよびDPCデータを提供可能な39病院の協力を得て,2007年~2011年の患者個票データを収集した.また,JANISデータとDPCデータを突合させたJANIS/DPC統合データベースを構築した. 平成24年度は,前年度に作成したデータベースを用いたデータ解析ならびに調査協力病院を対象にしたベンチマーク分析の結果をフィードバックした.具体的な研究実績は以下の3点である. 第1に,手術部位感染が発生することによる追加的医療費を術式別に推定し,国内外の学術誌に掲載した.多施設からなる患者データを用い,患者重症度を精緻に補正した推定は,国内外問わず研究蓄積が乏しく,本研究成果は本邦における感染制御方策の費用効果分析の参照値として活用することができる. 第2に,各病院を対象にしたヒアリング調査・質問紙調査を実施し,感染制御活動の実施状況について把握した.また,当該活動を貨幣価値に換算することで,感染制御活動による対策費用を推計した. 第3に,手術部位感染発生のパフォーマンスを病院間比較するための標準化感染比の算出方法を検討し,国内外の学術誌に掲載した.当該指標は,感染制御方策の有効性評価に活用することが可能になる.また,感染制御活動の対策費用と標準化感染比の関連性を検討することで,感染制御方策の費用対効果を明らかにすることができると期待される.今後,引き続き研究を重ね,標準化感染比を精緻化することで,医療政策の議論において関心が高まっているpay for reportingへの活用可能性も期待される.
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