本研究では、幼齢期に曝露したストレスが自閉症の後天的発症要因であるとの仮説に基づき、幼若期ストレス負荷ラットにおける自閉症の動物モデルとしての妥当性を追究することによってその発現機構の解明および薬物治療に向けての前臨床評価法の確立を目的とした。 幼若期ストレスとして3週齢(3wFS)時の仔ラットに足蹠電撃ショックを負荷し、成熟期(10-12週齢)に2匹のラットを用いた社会的行動(SI)試験を実施した。さらに、SI試験の新たな評価系として、1匹のラットにて測定可能な3-コンパートメントチャンバーを用いたSI試験(3-conSI試験)の確立を試みた。 成熟期3wFS群が示すSI障害において、ジアゼパム(DZP)、フルボキサミン(FLV)を用いた行動薬理学的検討を実施した。FLVは、成熟期3wFS群が示すSI障害を改善する傾向が認められたが、DZPはそれを有意に改善した。また、3wFS群の正中縫線核では、Parvalbumin (GABA神経系のマーカータンパク質)含有細胞の発現減少が免疫組織化学的に観察された。 3-conSI試験では、既存のオープンフィールド装置を利用しての創意工夫した装置を作製した。Crawleyらのマウスによる手順に準じて検討したところ、ラットにおいても同様に本試験の妥当性が示された。また、2匹を用いたSI試験と同様に3wFS群のSI障害が観察された。 以上の結果から、幼若期ストレスはSI障害ならびに正中縫線核内GABA神経系の異常性を誘発し、そのSI障害はGABA神経系を活性化するDZPにより改善することが明らかとなった。また、SI試験の新規評価系として、1匹のラットにて測定可能な3-conSI試験を確立した。幼若期ストレス負荷ラットは自閉症モデルとしてさらなる検証が必要であるが、幼若期ストレスとSI障害との関連性についての一端を見出すことができた。
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