研究課題/領域番号 |
23790595
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
上村 顕也 新潟大学, 医歯学総合病院, 医員 (00579146)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 遺伝子治療 / ハイドロダイナミック遺伝子導入法 / 肝臓 / 非ウイルスベクター / 大動物 / 血管造影手技 / 血友病 |
研究概要 |
本研究は、ハイドロダイナミック法を用いた遺伝子治療法の実現のため、非ヒト霊長類を対象動物としてその安全性、有効性を検証することを目的としている。本年度からの本研究助成基金助成金による助成によって、以下の研究成果が得られた。1.非ヒト霊長類の肝臓に対する適切な遺伝子注入パラメーターの設定と遺伝子導入効率の検証:体重20kg前後のヒヒ4頭を対象動物として、血管造影手技により右外側、右内側、左内側、左外側肝静脈に遺伝子注入用バルーンカテーテルを挿入し、設定した注入圧、量、速度などの各パラメーター下で、ルシフェラーゼ発現プラスミドを遺伝子導入し、その導入効率、区域特異性を検証した。この結果、注入圧100 psi、注入速度 20 ml/secで対象区域肝容量の2.5倍容量のプラスミドを注入した場合に、検証したパラメーターの組み合わせの中で最も高い1.0E+06 RLU/mg of Proteinレベルのルシフェラーゼ活性を認めた。回収した肝組織に対する抗ルシフェラーゼ抗体を使用した免疫染色では、対象肝区域特異的に6%の陽性細胞を認め、これまでのブタ、イヌを対象動物とした研究と同様の結果であった。2.非ヒト霊長類に対するハイドロダイナミック法の安全性の検証:上記パラメーターでの遺伝子注入中の体外式超音波による標的区域の膨張速度のリアルタイムな観察、生理学的(肝静脈圧、心電図、血圧、呼吸回数、等)、血液生化学的、組織学的な検討を行い、注入後に一時的な肝酵素の上昇を認めたほかは、明らかな異常所見を認めなかった。以上の結果から、ヒヒ肝臓に対する安全で最適な遺伝子導入パラメーターが設定され、非ヒト霊長類でハイドロダイナミック遺伝子導入法が安全、かつ効率的に応用可能であることが示唆された。なお、本研究の一部はピッツバーグ大学薬学部との連携研究として実施された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 上記実績概要で報告した、注入パラメーターの最適化が論理的に行われ、また、本方法論の安全性を多面的に検証し、研究が効率的に進み、来年度の研究に向けた基盤が確立された。2. 動物管理、施設の使用、サンプルの管理など、ピッツバーグ大学薬学部との連携が円滑に行われ、かつ研究の客観的な評価が慎重に重ねられた。3. 研究協力者である、Liu教授より、研究の方向性について、適切なアドバイスを得ることが可能であった。4. 遺伝子注入器の改良、開発について研究協力者の尾田教授と医工連携が密接になされた。以上の点から、現時点で本研究が順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 平成23年度に得られた結果に基づき、非ヒト霊長類に対してhAAT、hFIX発現遺伝子を導入し、HGDによる長期遺伝子発現を経時的に観察する。体重20kgのヒヒ、3-4頭に対して平成23年度の結果から最適化された伝子注入パラメーターでpCAG-hAAT、pBS-hFIXプラスミドDNAを導入し、長期遺伝子発現及び安全性を1年間評価する。導入効率はヒヒ血中hAAT、hFIX濃度を経時的にELISA法により評価する。また観察期間を通して生理学的、血液生化学的に安全性の評価を行い、サルの成長と発達から長期的な身体への影響も厳重に解析する。経過観察中に必要が生じた場合は肝生検を施行し、臓器障害を検証する。なお、プラスミドは研究協力者であるジョージア大学(前ピッツバーグ大学)、Liu教授より供与される。2. 次のステップであるヒト遺伝子治療への応用を目指した、前臨床研究に使用可能なGCP(Good Clinical Practice)準拠かつ対象領域の圧上昇に応じてコンピューター制御の注入を行う遺伝子注入器の開発を行う。遺伝子注入時の理想的な肝実質内圧と時間曲線を再現するフィードバックシステムを組み込んだ電動モーター式の注入機を作製し、小動物実験により有効性を検証する。これらの成果は安全で再現性のある遺伝子導入効率を担保するための基盤となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は実験動物の飼育費のほか、遺伝子導入効率を検証するためのルシフェラーゼ活性、ELISA、免疫染色等の試薬費、また、安全性評価のための血液生化学検査の費用を中心として本研究費による助成を使用する計画である。
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