研究課題/領域番号 |
23790597
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福土 将秀 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60437233)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 分子標的治療薬 / 薬物動態 / 薬理ゲノム / 副作用 / 個別化投与設計 |
研究概要 |
腎細胞がんに対する経口分子標的治療薬であるソラフェニブやスニチニブは、外来患者を中心に広く用いられてきているが、重篤な有害事象(手足症候群、高血圧など)による治療中止が臨床上問題となっている。我々はこれまでに、スニチニブ血中濃度の上昇と血小板減少の発現が有意に関連することを明らかにしてきた。また、遺伝子欠損マウスを用いて、薬物排出トランスポータであるABCG2とABCB1が、スニチニブの脳移行障壁として協調的に働いていることを明らかにしてきた。本研究では、スニチニブの主要排泄臓器である肝臓に着目し、胆汁排泄過程におけるこれらトランスポータの関与を明らかにすることを目的に、胆管カニューレを施したラットを用いて詳細な検討を行った。ABCG2とABCB1の選択的阻害薬としてそれぞれパントプラゾールとPSC833を用いラットに投与した後、スニチニブを静脈内に瞬時投与し1時間後まで胆汁を回収した。その結果、スニチニブの胆汁中への累積排泄量は、パントプラゾールとPSC833の前投与によって有意に減少したことより、両トランスポータがスニチニブの胆汁排泄に関与することが示された。また、肝臓と腎臓組織への薬物移行性(Kp値)が有意に上昇することが判明し、肝臓のみならず標的臓器である腎臓での局所的な薬物動態にも両トランスポータが影響することも初めて明らかとなった。さらに、両阻害薬を同時に投与した場合、単独投与と比較して脳組織Kp値が顕著に上昇し、これらの併用投与は中枢転移を有する腎細胞がん患者におけるスニチニブ脳移行を改善させる有効な治療法になる可能性が示唆された。 以上の研究成果は、スニチニブの体内動態制御機構を把握する上で有用な基礎的知見を提供するものであり、薬物相互作用を利用した有効なスニチニブ治療法の開発に繋がることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の一つである、経口分子標的治療薬の相互作用に関する基礎的検討を進め、一定の研究成果が得られた。現在、スニチニブやソラフェニブなどの薬物の肝取り込みに関与するトランスポータの同定について着手しデータを集積しているところである。一方、患者サンプルを用いた臨床研究においては、エルロチニブの解析症例数が目標症例数に到達し、血中濃度モニタリングと薬物動態関連遺伝子の多型解析がほぼ終了している状況である。また、ソラフェニブの母集団薬物動態解析については既にモデル構築が済んでいる。 以上より、平成23年度の進捗状況は、おおむね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、経口分子標的治療薬の薬物動態変動因子や治療効果・副作用の予測因子を明らにする。具体的には、(1)肺がん患者におけるエルロチニブ血中濃度と有害事象及び治療効果の関係について、EGFR変異を考慮に入れて明らかにする。(2)肝・腎細胞がん患者におけるソラフェニブの母集団薬物動態を明らかにする。(3)エベロリムスなどの新規経口分子標的治療薬のExposure/Safety関係を明らかにする。 電子カルテシステムを用いて治療経過記録等を収集し、副作用のGradeはNCI-CTCAE(Ver. 4.0)を用いて評価する。ロジスティック回帰分析を用いて、副作用発現と服用開始日または定常状態(8日目)における薬物曝露量(AUC、Cmax、C0)、外来受診日の薬物血中濃度との関係を明らかにする。また、薬物曝露量とGrade別副作用の累積発現頻度との相関解析(Cox比例ハザード分析)を行い、薬物の安全濃度域の設定を試みる。さらに、薬物血中濃度や副作用発現に及ぼす遺伝子多型(CYP3A5、ABCG2、UGT1A9等)の影響を体系的に評価し、副作用回避に有用な遺伝子マーカーを同定する。 経口分子標的治療薬の薬物動態及び薬効、薬理ゲノム解析を中心に研究を推進し、最終到達目標である「がん分子標的治療法の個別最適化の実現」を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
【設備備品費】本研究計画を遂行するに当たり、必要な分析装置(LC/MS/MS装置、PCR装置)や実験機器は現有設備を使用するため、新たに設備備品を購入する予定はない。【消耗品費】エルロチニブやラパチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、エベロリムス等の研究用試薬、並びにそれらの活性代謝物の標品、基礎実験のための小動物(ラット、マウス)の購入・飼育や、遺伝子多型解析(PCR酵素、制限酵素)に使用する。【旅費】関連分野における新知見等の資料収集及び研究成果発表のための国内旅費(京都⇔東京、2泊3日を延べ3回)に使用する。【謝金等】本研究計画を遂行するに当たり、必要な謝金等はない。【その他】遺伝子多型解析の正確性を期するための委託検査費(シークエンス解読)、並びに学術誌への投稿料及び英文校正料に使用する。
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