研究課題
分子標的抗がん薬であるエルロチニブやソラフェニブは、従来までの細胞傷害性の抗がん薬と異なり、間質性肺疾患や手足皮膚反応など重篤な有害事象による治療中止が臨床上問題となっている。我々はこれまでに、エルロチニブの母集団薬物動態解析を行い、薬物排泄トランスポータであるABCG2と服用日数が、見かけのクリアランスに対して有意に影響することを明らかにしてきた。最終年度は、88名の肺がん患者を対象に、エルロチニブ血中濃度と有効性・安全性の関係を明らかにすることを目的に多変量解析を実施した。その結果、グレード2以上の皮疹と下痢はエルロチニブ血中濃度と関連し、また皮膚毒性や消化器毒性、肝機能障害などの有害事象グレードの増大と血中濃度の上昇が有意に相関することが判明した。また、生存期間はエルロチニブ血中濃度と関連しなかったが、EGFR変異陰性患者の中で血中濃度が高値(> 1711 ng/mL)の患者は、客観的奏功率が高い傾向を示した。さらに、EGFR変異陽性患者における客観的奏功率は、エルロチニブ血中濃度が中間域(848-1684 ng/mL)において最も高いことが判明した。次に、ソラフェニブの体内動態特性を肝細胞がん患者と腎細胞がん患者において比較し、副作用との関連を検討した。母集団薬物動態解析の結果、肝細胞患者では見かけのクリアランスが腎細胞がん患者と比べて有意に低下し、血中濃度対投与量(C/D)比は治療経過日数とともに低下する傾向が認められた。また、ソラフェニブによるグレード2以上の手足皮膚反応または血小板減少を発現した患者では、非発現患者と比べて血中濃度が有意に高いことが判明した。以上の研究成果は、分子標的抗がん薬の副作用回避における血中濃度モニタリングの有用性を示唆するものであり、今後安全濃度域の設定に基づく個別最適化投与法の開発が期待される。
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http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~yakuzai/main.htm