研究課題/領域番号 |
23790599
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吾郷 由希夫 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (50403027)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 代謝型グルタミン酸2/3受容体 / 環境ストレス / うつ病 / グルタミン酸神経系 / グリア細胞 |
研究概要 |
本研究では、代謝型グルタミン酸2/3受容体(mGluR2/3)拮抗薬の抗うつ作用メカニズムやその有用性、mGluR2/3のうつ病における役割を追究することを目的に、環境要因に特化したうつ病モデル動物(長期隔離飼育マウスおよびグルココルチコイド長期負荷マウス)を用いて検討を行った。研究実施計画に基づき、1)うつ病モデルのグルタミン酸神経伝達とmGluR2/3拮抗薬の作用、ならびに2)グリア細胞機能分子と神経栄養因子の発現変動について解析した。 1)In vitroオートラジオグラフィー実験の結果、グルココルチコイド長期負荷マウス脳のmGluR2/3結合能に変化は認められず、これまでに見出してきた長期隔離飼育マウスでの結果(大脳皮質および海馬におけるmGluR2/3結合能の増加)(Kawasaki et al., Neuropharmacology, 2011)と異なるものであった。また、両うつ病モデルマウスの大脳皮質グルタミン酸遊離に変化は認められなかった。さらに、グルココルチコイド長期負荷マウスに対するmGluR2/3拮抗薬の抗うつ様作用が、AMPA型グルタミン酸受容体拮抗薬により抑制されなかったことから、mGluR2/3拮抗薬の抗うつ様作用機序として、グルタミン酸神経機能調節以外のメカニズムの関与が示唆された。 2)うつ病モデルマウスの大脳皮質および海馬での脳由来神経栄養因子、インスリン様成長因子I、グルタミン酸トランスポーターGLT-1の発現量に、正常マウスと比較して変化は見られなかったものの、海馬の血管内皮増殖因子(VEGF)の発現が両モデルマウスにおいて低下していた。既存の抗うつ薬が海馬VEGF発現を増加させるとの報告がなされていることから、本成績は、環境要因誘発モデルのうつ様行動の発現に、VEGFを介するシグナルの変化が関与する可能性を示すものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度研究計画として挙げていた1)うつ病モデルのグルタミン酸、モノアミン神経伝達に対するmGluR2/3拮抗薬、モノアミン系抗うつ薬の作用については、神戸理化学研究所分子イメージング科学研究センターとの共同による放射性リガンドを用いたin vitroオートラジオグラフィー実験、ならびにin vivo脳微小透析法によるグルタミン酸の解析を当初予定通り遂行することが出来た。一方で、グルタミン酸神経機能の解析からは、mGluR2/3拮抗薬の薬効機序の詳細を明らかに出来なかったことから、今後モノアミン神経系にも焦点をあて、引き続き解析を行う必要があると考えられる。 2)グリア細胞機能分子と神経栄養因子の発現変動に関する検討においては、大脳皮質、海馬という二つの脳領域に着目し、うつ病モデルマウスでの網羅的な解析を実施することが出来た。その中で、長期隔離飼育マウスとグルココルチコイド長期負荷マウスに共通する変化として、海馬VEGF発現の低下を見出した。今後、本変化が実際に両マウスのうつ様行動やmGluR2/3拮抗薬の作用とどのように関連するのか、また既存のモノアミン系抗うつ薬の影響等について明らかにしていく必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は以前の研究から、長期隔離飼育マウスならびにグルココルチコイド長期負荷マウスにおいて、高カリウム溶液による脱分極刺激時の大脳皮質ドパミン遊離上昇が、正常マウスと比較し増強されており、両マウスの大脳皮質ドパミン神経機能が亢進していること、さらにグルココルチコイド受容体拮抗薬が本変化を抑制し、抗うつ様作用を示すことを見出している(Ago et al., Neuropharmacology, 2008)。そこで平成24年度では、mGluR2/3拮抗薬のグルタミン酸神経機能調節作用以外の抗うつ様作用機序として、大脳皮質ドパミン遊離に対する影響を検討する。また、グルココルチコイド長期負荷マウスに対して抗うつ様作用を示さない既存のモノアミン系抗うつ薬(デシプラミン、フルオキセチン)に関しても同様に評価する。 また、当初平成24年度計画において挙げていた、DNAマイクロアレイ等の手法による環境要因誘発うつ病モデルに共通の変動因子の探索については、まずは平成23年度の研究で見出した海馬VEGF発現の低下に着目し、うつ様行動やmGluR2/3拮抗薬の作用機序との関連を追究する。具体的には、mGluR2/3拮抗薬、ならびに既存のモノアミン系抗うつ薬によるVEGF発現への影響、VEGFの脳内投与によるうつ様行動への影響等について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度計画では、前年度に引き続き、in vivo脳微小透析実験、ならびに神経栄養因子/成長因子等の分子の発現解析を行う。いずれも現有の機器を利用するため、新たな大型機器の購入は必要ない。脳微小透析実験においては、本システム系の分析装置内備品(分析カラム、電極等)、ならびにマウス脳内神経伝達物質の回収に必須の透析プローブおよびその固定のための製品(マウス1匹につき1セット)の購入が必要である。また、行動薬理学的検討では動物の使用数が多いことは必至である。以上から、平成24年度に使用計画の研究費については、分子生物学的解析に必要なものも含め、実験動物(マウス)・試薬・消耗品が中心である。
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