本研究では、代謝型グルタミン酸2/3受容体(mGluR2/3)拮抗薬の抗うつ作用メカニズムやその有用性、mGluR2/3のうつ病における役割を追究することを目的に検討を行った。 視床下部-下垂体-副腎皮質系の機能異常は難治性うつ病態に関与していることが示唆されている。当該年度では、グルココルチコイド長期負荷マウスのうつ様行動が三環系抗うつ薬デシプラミンによっては改善されないこと、さらに選択的セロトニン再取り込阻害薬(SSRI)であるフルオキセチンやセルトラリンも本マウスのうつ様行動に対して改善作用を示さないことを見出し、グルココルチコイド長期負荷マウスが既存の抗うつ薬に抵抗性のうつ様行動を示すことを明らかにした。一方で、mGluR2/3拮抗薬が本マウスのうつ様行動を抑制することを見出し、グルタミン酸神経系を標的とした治療戦略が有効である可能性を示唆した。 さらにmGluR2/3拮抗薬は、グルココルチコイド長期負荷マウスにおいて認められる脱分極刺激による大脳皮質ドパミン遊離上昇の増強を、抗うつ様作用を示す用量において有意に抑制した。一方、本マウスに対して抗うつ様作用を示さなかったデシプラミンやフルオキセチンでは、このような大脳皮質ドパミン遊離上昇の抑制作用は認められなかった。以上の結果から、グルココルチコイド長期負荷マウスのうつ様行動発現に大脳皮質ドパミン神経機能の亢進が関与すること、またmGluR2/3拮抗薬は、大脳皮質ドパミン神経活性化を抑制することにより、本モデルマウスのうつ様行動を改善する可能性が示唆された。
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