研究課題/領域番号 |
23790603
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
石塚 洋一 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (70423655)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 薬剤性肝傷害 / 小胞体ストレス |
研究概要 |
本研究は、薬剤性肝傷害の中でも発生率が極めて高く、救命・救急医療の現場で問題視されているアセトアミノフェン(APAP)誘発肝傷害の病態機序解明および新規治療法開発を企図し、肝傷害形成における小胞体ストレス関連転写因子C/EBP homologous protein CHOP/GADD153(CHOP)の役割を検証するものである。これまでに以下の知見を得た。1.小胞体ストレス(XBP-1スプライシング)をマウス個体レベルで感知し緑色蛍光タンパク(GFP)を発現するER stress activated indicator (ERAI)マウスにAPAP(400 mg/kg, i.p.)を投与した結果、APAP投与後4および8時間で、肝実質細胞傷害に付随し、小葉中心性にGFPの発現を認めた。また、この時の肝臓でCHOPをはじめ小胞体ストレス関連因子のmRNAの発現が有意に増加した。さらに、CHOPの発現を免疫染色により評価した結果、肥大した肝実質細胞の核においてCHOPが高発現していた。2.野生型(WT)およびCHOPホモ欠損(CHOP-/-)マウスにAPAPを投与した結果、WTに比べCHOP-/-マウスでは血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)値が有意に低値を示し肝細胞壊死およびTUNEL陽性細胞数の増加は顕著に軽減されていた。3.APAP同様に、CYP2E1により毒性代謝物を生じ、肝細胞傷害を惹起する四塩化炭素(CCl4)を用いて肝傷害モデルを作成し、同様の検討を行った。その結果、CCl4(1 ml/kg)投与によりERAIマウス肝臓にてGFP発現およびCHOP mRNAの顕著な増加が見られたが、CCl4(0.025 or 1 ml/kg)投与による血清ALT値および肝細胞壊死の増加において、WTとCHOP-/-マウスに差は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画では、A. ERAIマウスにおけるアセトアミノフェン肝傷害時の小胞体ストレス発現プロファイリングおよびCHOPノックアウトマウスを用いた肝傷害病態形成における小胞体ストレス-CHOP経路の役割の解析(平成23年度および平成24年度中期に実施)、B. 小胞体ストレス-CHOP経路制御物質のアセトアミノフェン肝傷害の新規治療薬候補としての可能性評価(平成24年度および平成25年度中期に実施)、およびC. 他の薬剤性肝傷害や劇症肝炎モデルにおける小胞体ストレス-CHOP経路の役割に関する探索的評価(平成25年度に実施)を実施予定であった。 研究実績の概要に記載のように、平成23年度に計画Aはほぼ終了し、予定を繰り上げてすでに計画Cを実施していることから、当初の計画以上に順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに得られた知見の発展的検討として、アセトアミノフェン誘発肝傷害に対する小胞体ストレス-CHOP経路制御物質の新規治療薬候補としての可能性評価を評価する目的で、アセトアミノフェン誘発肝傷害マウスモデルにおけるPD 153035、プラノプロフェン、CHOP siRNAなどの小胞体ストレス-CHOP経路制御物質投与の影響を評価する。 また エンドトキシン誘発劇症肝炎モデルおよび肝硬変・肝線維症モデルにおける小胞体ストレス-CHOP経路の役割に関する探索的評価(平成25年度に実施)を実施する。 これらにより、アセトアミノフェンをはじめとした重篤な薬剤性肝傷害のみならず他の肝疾患の病態形成における小胞体ストレス-CHOP経路役割を明らかにし、本研究コンセプトの普遍性・発展性を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、以下の様な消耗品を購入する。 平成24年度の研究の中核となる小胞体ストレス-CHOP経路制御物質の購入費用に充てる。研究の全体を通し必要な(1)肝傷害指標ASTおよびALT活性測定を血液生化学分析試薬、(2)HE染色およびTUNEL染色に用いる病理標本用試薬、(3)肝臓中グルタチオン測定に用いるグルタチオン測定キット、(4)肝臓の酸化ストレスマーカー測定の過酸化脂質量測定試薬、(5)肝組織中RNA発現解析に用いるリアルタイムPCR試薬等のRNA発現解析試薬、(6)肝組織中小胞体ストレスマーカのウェスタンブロッティング試薬、抗体等を小胞体ストレスマーカ解析試薬、(7)マウス肝臓初代培養細胞に用いる培地、コラゲナーゼなどの試薬を肝初代培養用試薬、(8)肝初代培養細胞の細胞傷害性の判定に使用するMTT assay試薬およびAnnexin V assay用試薬を細胞傷害判定試薬、(9)実験動物の苦痛軽減に用いる麻酔薬、採血用シリンジ・注射針等を動物実験用試薬などの消耗品購入に充てる。 また、当初の計画のように旅費として計上した費用で、医療薬学フォーラム(福岡)および日本薬学会年会(横浜)に参加し、本研究成果の公表する予定である。
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