研究課題/領域番号 |
23790606
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
巨勢 典子 慶應義塾大学, 薬学部, 研究員 (60348612)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 胎盤関門 / ヒポタウリン / エズリン |
研究概要 |
細胞膜裏打ちタンパクであるエズリンは胎盤関門の母体側刷子縁膜に局在し、胎盤関門を介した母体・胎児間の物質輸送の制御に重要な役割を果たしていると考えられるが、具体的機構は不明である。本研究は、胎盤エズリンが栄養物トランスポーターの細胞膜発現・機能調節に果たす役割を解明することを目的とした。抗エズリン抗体を用いてマウス胎盤刷子縁膜フラクションに対する免疫沈降を行った結果、免疫沈降物においてSlc6a13トランスポーターが検出されている。胎盤組織におけるSlc6a13の局在を明らかにするため免疫染色解析を行った結果、Slc6a13由来のシグナルはエズリンとともに胎盤刷子縁膜に局在することを明らかとした。従って、Slc6a13の胎盤組織内局在制御にはエズリンが重要な役割を果たしていることが示唆された。 胎児濃縮的に分布するヒポタウリンは、エズリンノックアウトマウス胎児において濃度が減少しており、マウスSlc6a13はヒポタウリンを基質とする。他のSlc6aトランスポーターがヒポタウリン輸送に関与する可能性について検討した結果、タウリントランスポーターであるマウスSlc6a6についてもヒポタウリンを基質とすることを明らかとした。ただし、親和性と血中濃度の観点からSlc6a6を介した輸送は血中タウリンによってほぼ飽和しており、ヒポタウリン輸送への寄与は小さいことが示唆された。さらに、ヒトSlc6a13についてもヒポタウリンを基質とすることが示された。以上の結果から、胎盤関門の母体側刷子縁膜においてエズリンとSlc6a13が共局在し、胎児へのヒポタウリン輸送に重要な役割を果たしている可能性が高い。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度における研究目標は、胎盤エズリンとの相互作用によって局在および機能制御を受ける胎盤トランスポーターを同定するため、必要なエビデンスを得ることにある。解析の結果、胎盤関門の母体側刷子縁膜においてエズリンとSlc6a13が共局在し、胎児へのヒポタウリン輸送に重要な役割を果たしていることを示す多くのデータを得ることができた。特に数あるSlc6aトランスポーターのうち、実質的にヒポタウリン輸送に関与しうるのがSlc6a13であることを見出し、解析対象を絞り込めた点は、予定以上の研究の進展であった。本結果は、胎盤エズリンが胎児成長に果たす役割を解明していく上で重要な知見であり、平成24年度においてエズリンによるSlc6a13局在・機能制御機構とその生理的意義を明らかにしていくための基盤成果として、十分であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、エズリンがSlc6a13を介したヒポタウリン輸送に果たす役割について分子レベルでの検討を進める。具体的には、Slc6a13をエズリンと共に発現させることによるヒポタウリン輸送活性化の有無を解析する。その上で、エズリンの脱リン酸化阻害剤を用い、エズリンのリン酸化シグナルのオン-オフによる制御を解析する。また、エズリンあるいは相互作用するSlc6a13のアミノ酸配列を部分的に変異欠損させた変異体を作製し、その影響を解析する。さらに、ヒポタウリンは化学構造上酸化ストレスのスカベンジャーとして、また有機オスモライトとして機能し得る。そこでヒポタウリン欠乏胎盤(エズリン欠損マウス胎盤)における酸化および浸透圧ストレスマーカー量を測定し、これらのストレス障害の惹起について解析する。胎児胎盤系におけるヒポタウリン欠乏を改善するため、ノックアウトマウスにヒポタウリンを投与し、胎児成長不全改善効果の有無を解析する。以上の解析を通じて、エズリンノックアウトマウス胎盤における胎盤機能不全の発症機構とその回避方法を見出し、胎児成長におけるエズリンの重要性を提示することを目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は効率的に研究を遂行でき、siRNA等遺伝子工学試薬の使用を予定より抑えながらも、十分な成果を得ることができた。また、旅費の使用も抑えることができ、結果として平成23年度使用額は計画よりも少額となった。そのため、平成24年度使用額は増額となるが、平成23年度購入予定であったsiRNAは平成24年度においても必要な試薬であり、平成24年度予算において購入する。さらに、in vivoにおけるヒポタウリン胎児移行速度を解析する上で、内因性ヒポタウリンが解析の障害となっている。内因性ヒポタウリンと区別して定量するために必要となる、ヒポタウリン放射標識体の合成に向けた予算も必要とする。本研究計画に必要な設備、解析機器は既に整備されており、高額な設備備品購入は必要としない。研究経費の大部分は試薬等の消耗品費として使用予定である。その他、研究成果発表のための学会参加費、および研究成果を英語論文として発表するための論文校閲費および投稿費としても使用予定である。
|