研究課題/領域番号 |
23790607
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
辻本 雅之 京都薬科大学, 薬学部, 講師 (90372739)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 末期腎不全 / 尿毒症物質 / スタチン / 横紋筋融解症 / CYP3A4 |
研究概要 |
末期腎不全患者において、薬剤の重篤な有害事象報告は後を絶たない。特に、末期腎不全患者では、脂溶性・水溶性を問わず、スタチンによる横紋筋毒性が顕在化することが有名である。この現象には、血中濃度の上昇を伴う場合、伴わない場合が考えられている。 血中濃度の上昇を伴う場合は、一部の脂溶性スタチンの代謝に関与する薬物代謝酵素CYP3A4の機能低下が疑われる。本検討において、末期腎不全患者血清において、ビタミンD受容体の機能低下に伴いCYP3A4機能が顕著に低下している可能性を示した。よって、末期腎不全患者における一部のスタチンの血中濃度上昇ならびに横紋筋障害の顕在化は、CYP3A4機能の低下に起因する可能性が示唆された。 一方で、血中濃度の上昇を伴わない場合は、スタチンの横紋筋分布の増大、または感受性増大が疑われる。本検討において、末期腎不全患者で想定される遊離型濃度における4種の尿毒症物質(CMPF,馬尿酸,インドキシル硫酸,インドール酢酸)は、単独処置では横紋筋モデル細胞に対して障害性を示さなかった。一方で、これら尿毒症物質の前処置は、LDHやCPKの漏出増大を伴い、スタチンによる横紋筋障害性を有意に増強させることが示された。さらに、尿毒症物質の前処置は、スタチンの細胞内取り込み量に有意な影響を及ぼさないことが明らかとなった。よって、尿毒症物質によるスタチン毒性の増強は、スタチンの組織分布の増大ではなく、感受性の増大に起因することが明らかとなった。 以上の本年度の検討から、末期腎不全患者におけるスタチンによる横紋筋毒性の増悪は、1.活性化ビタミンD受容体の機能低下に伴うCYP3A4機能の低下、2.慢性的な尿毒症物質の蓄積によるスタチン感受性の増大の2点が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の想定に反して、末期腎不全患者血清前処置時に健常者血清前処置時よりCYP3A4活性が顕著に低いことを見いだした。本年度は、CYP3A4活性低下メカニズムの解明により多くの時間を要したものの、その一方で末期腎不全患者におけるスタチンによる横紋筋障害を表現出来る in vitro 評価系を無事に作成出来たため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果を受けて、末期腎不全患者におけるCYP3A4機能低下メカニズムについて、より詳細に検討する。具体的には、本年度の結果からビタミンD受容体の機能低下が考えられたため、末期腎不全患者血清中の活性型ビタミンD濃度を測定し、健常者血清と同程度になるように活性化ビタミンDを追加する。この実験により、活性化ビタミンDの低下のみで説明出来るのか、それとも尿毒症物質等によるビタミンD受容体(VDR)機能阻害が生じているのかを明らかに出来る。活性化ビタミンDの低下のみで十分に説明出来た場合は、末期腎不全患者におけるCYP3A4低下メカニズムを十分に解明出来たと判断して、速やかに英文の学術雑誌への投稿を考える。仮に十分に説明出来なかった場合は、活性型ビタミンDのVDRに対する結合阻害、VDRの結合エレメント(VDRE)への結合阻害を疑い、それらに対する末期腎不全患者血清および尿毒症物質の影響を評価する。 一方、横紋筋障害性の増強については、末期腎不全患者におけるスタチンによる横紋筋障害を表現するin vitro 評価系も出来上がり、これからは、末期腎不全患者の横紋筋内で生じている詳細を明らかに出来るようになるため、今後は、よりスムーズに研究が遂行できると考えられる。具体的には、各種尿毒症物質で処置された横紋筋モデル細胞の特性を評価することが考えられる。例えば、スタチンの薬理ターゲットでもHMG-CoA還元酵素に関連する遺伝子であったり、アポトーシスに関連する遺伝子などが変容している可能性も十分に考えられる。次年度は、まずその辺りを明確にすることを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の検討では、CYP3A4機能評価系・活性型ビタミンDの定量・プロモーター活性評価系・アポトーシス評価系・細胞障害評価系等に用いる試薬・抗体や、横紋筋細胞の変容を評価するための遺伝子解析等々に多くの費用がかかることが想定されている。よって予算の大部分は、これら消耗品の購入に充てる予定である。 一方で、研究成果の発表は重要な責務であると考えており、関連学会である日本腎臓病薬物療法学会や日本医療薬学会、日本薬学会での学会発表を視野に入れており、その旅費としても計上する予定である。さらに、本研究は、一部分において一定の結論に達していると考えられるため、英語論文としてまとめて学術雑誌への投稿も考えており、その際の英文校正における謝金としても使用させて頂く予定である。
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