本邦のTSH不応症で高頻度に検出されるTSH受容体遺伝子(TSHR)におけるR450H変異は、日本人の成人においても潜在的に存在し、甲状腺機能の低下に影響している可能性がある。本研究では、この変異の頻度を評価し、甲状腺機能との関連性を比較することで変異検出の重要性を評価することを目的とした。また、遺伝子変異を微量の血液から直接、簡便、迅速に検出できる新規迅速遺伝子解析技術SmartAmp法を用いることで、この変異を簡便に検出する試薬を作製することをもう一つの目的として検討を行った。 はじめに、TSHR R450Hについて、野生型と変異型を明確に識別できるSmartAmp法のプライマーセットをスクリーニングし、TSHR cDNAのほか、ゲノムDNA、血液を用いた変異の解析結果をダイレクトシークエンス法と比較することでSmartAmp法の試薬が正確に変異を検出するできることを確認した。 このSmartAmp法の試薬を用いて、これまでに甲状腺疾患の既往のない400例以上の対象者についてTSHR R450H変異の解析を行った結果、変異を有する症例が数例存在することが判明した。対象者の甲状腺機能および甲状腺自己抗体を解析し、甲状腺自己抗体およびR450H変異による甲状腺機能の変化について検討したところ、この変異は甲状腺自己抗体とは独立して潜在的に甲状腺機能の低下に影響している可能性が示唆された。 これらの結果より、日本人における甲状腺機能低下症の原因検索として、甲状腺自己抗体の評価に加えて、TSHRのR450H変異を評価することは有用であり、この検出を微量の血液から直接、簡便、迅速に検出できるSmartAmp法は臨床的に有用な方法であることが示唆された。
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