研究課題
私は、私達が発見したRNA ポリメラーゼII ホロ酵素の構成成分である基本的転写共役複合体メディエーターが核内受容体を介する特異的な顆粒球・単球分化を担うことをこれまでに報告した。本研究は、GATA群やC/EBP群など新たなDNA結合転写因子によるメディエーターを介する血球分化を加えて、血球分化の転写制御でメディエーターが直接介在する経路とその間のバイパス経路の存在、即ちヒストン修飾以外にもDNA 結合転写因子後のRNA転写までの核内シグナル制御機構の多様性により微妙な恒常性維持を可能にする機序を実証する。本研究は、血球分化の転写制御のうちこれまで顧みられてこなかった転写因子後の核内シグナル伝達の全容を解明し、その破綻としての急性白血病や骨髄異形成症候群の病態の解明と分子診断に寄与することを目的とする。 メディエーターは基本転写因子の性質の他、サブユニット構造による特異性が細胞の特異的な分化・増殖・恒常性維持に決定的な役割を担い、中でもMED1/TRAP220サブユニットは核内受容体やGATA群などのコアクチベーターとして極めて重要な特異的・生理的役割を果たす。メディエーターは特に造血組織において造血の鍵になるコファクターであること、すなわち造血細胞においては各種造血前駆細胞の分化・成熟に、造血ニッチにおいては造血微小環境への造血幹・前駆細胞支持のシグナルの萌出に、重要な役割を果たすことが明らかになりつつある。 23年度は研究計画に則り、K562 赤白血病細胞のGATA1 誘導性赤芽球分化におけるMED1依存性を示し、またMED1とGATA1の結合のバイパス分子を同定してその分子機序の解析を進めた。また、GATA1が関与する代表的なプロモーターとして、γグロビンプロモーターの解析を行った。その結果、転写因子後の核内シグナルの多様性についてのモデルを得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画どおり、K562 赤白血病細胞のGATA1 誘導性赤芽球分化におけるMED1依存性を示し、またMED1とGATA1の結合のバイパス分子を同定してその分子機序の解析を進めることができた。また、GATA1が関与する代表的なプロモーターとして、γグロビンプロモーターの解析を行うことができた。その結果、転写因子後の核内シグナルの多様性についてのモデルを得ることができた。
赤芽球分化におけるMED1の役割を詰める一方、当初の計画に従って新たな遺伝子改変マウスの作成をすすめ、その解析を行う。また、リンパ球分化におけるメディエーターの役割についての解析を開始する。
23年度末に5260円という端数の残余があった。以前であれば細かい消耗品を購入して予算を消化するところであったが、この度は基金化に伴い、予算の繰越が簡単であることを知り、端数の予算をより有効に使用するために次年度に繰り越すこととした。この繰越金は次年度予算のうち消耗品(試薬)に充てる予定である。
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Mol. Cell. Biol.
巻: 32 ページ: 1483-1495
10.1128/MCB.05245-11