研究課題
私はこれまでに、私達が発見したRNAポリメラーゼIIホロ酵素の構成成分である基本的転写共役複合体メディエーターが核内受容体を介する特異的な顆粒球・単球分化を担うことを報告した。本研究は、血球分化の転写制御のうちこれまで顧みられてこなかった転写因子後の核内シグナル伝達に注目し、GATA群など別のDNA結合転写因子によるメディエーターを介する血球分化を加えて、血球分化の転写制御でメディエーターが直接介在する経路とその間のバイパス経路の存在、即ちヒストン修飾以外にもDNA結合転写因子後のRNA転写までの核内シグナル制御機構の多様性により微妙な恒常性維持を可能にする機序が存在することを実証しようとするものである。24年度は研究計画に従い、K562 赤白血病細胞のGATA1 誘導性赤芽球分化において、MED1とGATA1が直接結合しなくとも、これらの結合をバイパスする分子として、先にエストロゲン受容体とMED1との間をバイパスする分子として同定されたCCAR1を同定した。また、CCAR1とペアを作る分子として知られているCoCoAについても調べたところ、CoCoA存在下でこれらの結合がさらに強固になることがわかった。これらの結合様式を調べたところ、GATA1がMED1分子の中ほどのドメインと結合する他にCCAR1とCoCoAにも結合し、CCAR1がMED1のN端に結合し、CoCoAがCCAR1と結合することかわかり、またその結合ドメインと結合様式を示すことができた。γグロビンプロモーターを用いた検討で、CCAR1やCoCoAがGATA1誘導性かつMED1のN端依存性の転写を強力に増強することが証明された。以上のように、CCAR1・CoCoAペアがGATA1とMED1をバイパスしうることが示され、これをもとにGATA1後の核内シグナルの多様性についてのモデルを構築しつつある。
2: おおむね順調に進展している
GATA1とMED1をバイパスする分子群を同定し、GATA1による転写活性化の機序の多様性を世界で初めて示すことができた。GATA1は血球分化のマスター転写因子であることから、この成果の学問的意義が大きいと考えられる。
GATA1による転写活性化の新しいバイパス経路の詳細な分子メカニズムを詰めて論文をしてまとめるほか、個体レベルでこれを証明するために、新しいモデルマウスの開発と解析を進めていく。
24年度末に61,408円の残余があったが、24年1月初旬に海外発注したバキュロウイルス作製システムが年度内に納入されなかったためである。同システムは特殊な系であって、製造元が規格にかなう商品の作製に手間取っている模様である。そこで、本研究費は基金化されたことから、この部分の消耗品費を次年度に繰り越すことにした。したがって、この繰越金は次年度予算のうち消耗品(試薬)に充てる予定である。
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Mol. Cell. Biol.
巻: 32 ページ: 1483-1495
10.1128/MCB.05245-11