研究課題/領域番号 |
23790626
|
研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
大西 英知 明海大学, 歯学部, 助教 (30580279)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 表面プラズモン共鳴 / バイオセンサ / 光ファイバ / 歯周病診断 / 歯周病原細菌 / マイクロ・ナノデバイス / ナノ・マイクロ科学 |
研究概要 |
今年度の研究事業では、光ファイバSPRセンサを利用した歯周病診断システムの構築に必要なセンサ表面におけるソフト界面の最適化を行った。本研究における構成技術は原理:表面プラズモン共鳴、トランスデューサー:光ファイバ、固定化方法:ポリマー分子、分子識別素子:Forsythia Detaching Factor(FDF)抗原・抗FDF抗体を用いた。(1)FDF抗原および(2)抗FDF抗体をそれぞれセンサ表面に固定化する技術の検討に関する研究実績の概要を以下に示す。(1)光ファイバ型表面プラズモンセンサチップへのFDF抗原の固定法の確立センサ表面へのFDF抗原の固定にポリマー固定法を用い、抗FDF抗体溶液濃度を変化させ、波長シフト量の変化を検討した結果、使用した抗体濃度依存的に再現性を伴った波長変化は得られなかった。また波長変化量も1-2 nmと比較的小さい値であった。この原因として抗FDF抗体により認識されるFDFエピトープがセンサ表面に規則正しく配列していないこと、あるいは用いた固定化方法により立体構造の変化が起こったことなどの理由が考えられた。(2)光ファイバ型表面プラズモンセンサチップへの抗FDF抗体の固定法の確立センサ表面への抗FDF抗体の固定化にプロテインGを介在させ、抗体溶液濃度の変化による、波長シフト量の変化を検討した結果、抗体濃度5 %(v/v %)とした固定化条件において、50 μg/mlのFDF抗原を検出できた。抗原抗体反応を示す波長変化量は最大4.57 nmであった。今後はl-500μg/mlの範囲における検量線を作成する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においてはまず、我々が世界で初めて報告した病原因子Forsythia Detaching Factor (FDF)と、当該因子に対する抗FDF抗体を表面プラズモンバイオセンサを利用して定量する系の確立を行った。現在のところ(1)Tannerella forsythia (T. forsythia) からFDF抗原の精製に関しては既に実験系は確立されている。次に(2)光ファイバ型表面プラズモンセンサチップへのFDF抗原および抗FDF抗体の固定法の確立に関しては、まずFDF抗原のセンサ表面への固定に関して、現時点で再現性を持った抗体との結合を検出できていない。これはFDF抗原の固定処理で、光ポリマー固定法を用いたため、センサ表面に露出する抗FDF抗体により認識されるエピトープがランダムに固定化されていること、また固定化操作の段階で、FDFの立体構造が変化していることが原因と考えられる。一方、IgG抗体のセンサ表面への固定はプロテインGを用いていることから、配向性を持って固定化することが可能であるため、3.73 nm-最大4.57nmの波長変化量を測定できた。現在、結果が良好な抗FDF抗体の固定に絞り再現性あるデータを得るため、繰り返し測定を続けている状態である。再現性が得られたのちに、定量の為に必要な検量線の作成を行っていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、センサ表面における分子識別素子タンパクとして、より成果が期待できる抗FDF抗体の固定化に絞って研究を推進していく予定である。同時に、今年度の結果よりセンサ表面の金薄膜上にIgG抗体の固定を可能とする自己組織化膜(self-assembly monolayer: SEM)の作製が重要であるとの知見を得たので、IgG抗体の配向性を制御し、さらに活性を維持した状態で固定化する方法も並行して検討していくことで検出感度の向上を図る。また既知の濃度の標準FDF抗原を用いて、FDFの濃度とSPRセンサによる現時点での検出感度における共鳴波長の変化量との関係線を作成し、歯肉溝滲出液中(GCF)のFDF抗原濃度の定量を行う予定である。具体的には、明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科外来を受診した歯周炎患者20名を被験者とする。選択基準は、(1)全身疾患を有さない、(2)少なくとも15歯以上の歯が残存している、(3)実験開始3か月以内に全身的、局所的抗菌剤投与が行われていないこととする。歯科臨床検査は歯周組織検査として、プロービングポケット深さ(PPD)、クリニカルアタッチメントレベル(CAL)、プロービング時の歯肉からの出血(BOP)を記録する。光ファイバプローブによる抗FDF抗体の実時間測定を光ファイバ表面プラズモンセンサを用いて、被験部位の歯周ポケットから採取したGCFをPBSバッファーに溶出し、FDF抗原濃度の定量を行う。本研究に関する倫理委員会の承認は既に得ている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費が生じているが、これは研究協力者より光ファイバSPRセンサチップの購入予定前にデモ用としてセンサチップと関連試薬のサンプル提供を受けたためである。さらに光ファイバSPRセンサチップは、100mM塩酸による処理で再生が可能であるとの結果を得たため、購入費用が現在までに発生していない。しかし次年度に行う予定である臨床サンプルの測定時には、新品未使用の光ファイバSPRセンサチップを使用する必要があるため、翌年度に繰り越した当該研究費は研究計画の変更に伴い、翌年度に請求する予定である。具体的な研究計画の変更点としては、センサ検出感度の向上に必須と考えられるセンサの金薄膜上に形成する自己組織化膜の構築を並行して行っていく点である。
|