研究課題/領域番号 |
23790629
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
猪狩 敦子 慶應義塾大学, 医学部, 研究員 (60594893)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ADAMTS13 / 自己抗体 / 高感度定量測定 |
研究概要 |
後天性TTP患者の血液中には止血因子の1つであるvon Willebrand因子を特異的に切断する酵素、ADAMTS13に対する自己抗体が存在する。そこでTTPの診断のみならず治療方針、予後予測の一手段となるべく血液中の抗ADAMTS13自己抗体を高感度に定量測定する方法を確立するために、23年度はADAMTS13各ドメインを含む数種類のRI標識抗原作製を試みた。まず全長ADAMTS13cDNAを含むプラスミド(pcDNA3.1myc-His/ADAMTS13)をテンプレートにし、各ドメインごとのプライマーを用いてPCR反応を行った。精製した増幅産物を制限酵素処理・精製エタノール沈殿し、精製PCR断片をpF3A WG Vectorとライゲーションさせ大腸菌DH5αにトランスフォーメーションした。作製したプラスミドの配列を確認するためにDNAシークエンスを行ったところ、配列は完全に一致しており目的のプラスミドDNAを作製することができた。 次に作製したプラスミドDNAを用いて無細胞タンパク質発現系により数種類のRI標識ADAMTS13抗原の作製を試みた。2種類の無細胞タンパク質合成キットと35Sメチオニンを用いて、プラスミドDNAや35Sメチオニンの添加量、インキュベーション時間を変え最適な反応条件を決める条件検討を行った。さまざまな条件で作製したRI標識抗原の確認をするためにSDS-PAGEを行い、液体シンチレーションでRI導入率を測定したところ目的の位置に単一バンドが見られ、かつRI導入率の割合が高いものを最適条件と決定した。実際に作製した抗原の中のMDTCS領域とTSP1-repeats/CUB領域を含むRI標識抗原を抗ADAMTS13モノクローナル抗体と免疫沈降させたところ、抗体濃度依存的に免疫複合体を回収するところまで確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的はTTPの診断のみならず治療方針、予後予測の一手段となるべく、後天性TTP患者の血液中に存在する抗ADAMTS13自己抗体を高感度に定量測定できるRIA法による測定系の確立である。そこでADAMTS13の酵素活性に必要なMetalloprotease、Disintegrin-like領域と自己抗体が集中して見られるCys-richからSpacerドメインを含む数種類のRI標識ADAMTS13抗原を作製し、作製した抗原部位を認識する抗ADAMTS13モノクローナル抗体を陽性コントロール、認識しない抗体を陰性コントロールとして陽性値と陰性値の差が最も大きくなるような条件検討をし、ADAMTS13の各ドメインごとのRI標識抗原を用いて、抗ADAMTS13モノクローナル抗体との反応性を確認する。次にTTP患者血漿を使用しドメインごとに自己抗体の定量測定を行う予定である。 現在は測定系に必要不可欠な数種類のRI標識ADAMTS13抗原を作製し、実際にADAMTS13ドメインのMDTCS領域とTSP1-repeats/CUB領域を含むRI標識抗原を用いて各ドメインを認識するマウスモノクローナル抗体と反応させ、プロテインGビーズにより回収し液体シンチレーションにより放射活性を測定したところ抗体濃度依存的に免疫複合体を回収するところまで確認ができた。以上のことより、当初の研究計画通りおおむね順調に進んでいると考えられる。次年度はさらに細かいドメインごとのRI標識抗原を用いてモノクローナル抗体と条件検討をし、TTP患者サンプル中の自己抗体の定量測定を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後はRIA法を用いた測定系の検証実験を行う。具体的にはADAMTS13内の各ドメインに対するRI標識抗原とエピトープが判明している抗ADAMTS13モノクローナル抗体を段階希釈し免疫複合体を形成させ、96wellフィルタープレートにてプロテインGビーズまたはプロテインAビーズを用いて免疫複合体を回収し、液体シンチレーションにより放射活性を測定する。同時にRI標識抗原の添加量とRIA法における各洗浄操作、ブロッキングの条件検討を行い、測定結果が陰性コントロールと比較して有意に差が生じ、目的の抗体を定量的に測定できる最適な条件を見出す予定である。 次に本測定法を用いて正常人血漿サンプルもしくは精製IgGサンプルを各ドメインごとにRI標識抗原と免疫複合体を形成させてトリプル測定を行い、結果よりcut-off値を定める。次に実際に複数のTTP患者血漿サンプルもしくは精製IgGサンプルを用いてADAMTS13ドメインごとのRI標識抗原と免疫沈降させ、自己抗体を定量測定する。患者サンプル中の自己抗体を本測定法により高感度に定量測定することが確認できた場合、さらに治療前または治療後のTTP患者サンプルを用いて測定を行い、検出された自己抗体の結果より予後と強く関連する自己抗体認識ドメインの情報を得ることを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はRIA法を用いた抗ADAMTS13抗体の測定において35Sメチオニン、無細胞タンパク質発現キット、プロテインGビーズ、フィルタープレート、ピペット、チップ、マイクロチューブ、シンチレーション混合液、各種Buffer調整用試薬、実験用器具などの物品費(消耗品)として100万円を使用する予定である。 また国内においては(1)日本血栓止血学会、国外においては(2)アメリカ血液学会で本研究の成果を発表するために旅費として(1)5万円、(2)25万円を使用する予定である。 以上の各費目が全体の90%を超えることはなく、また、その他の費目で、特に大きな割合を占める経費が発生する可能性はない。
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