本研究は、悪性胸膜中皮腫(以下、中皮腫)が中皮細胞の腸上皮化生様の変化であるという仮説のもと、中皮腫と腸上皮化生との関連性を分子レベルで明らかにすることを目的としている。 前年度に得られた中皮腫におけるインテレクチンのエンハンサー・プロモータ領域として絞り込んだ領域(-200~+344)をさらに詳細に検討し、プロモータ領域としてTATAボックスを含む-56~+6の領域、エンハンサー領域として+263~+293の領域を同定した。そこで、これらの領域に結合する転写因子をデータベースサーチにより検索し、PDX1、SOX10、Oct7、GATAファミリー、ER-α、CDX2などの転写因子の候補分子を見いだした。このうち、PDX1とCDX2は中皮腫細胞では発現がないことが実験により確認された。また、GATAファミリーとER-αは中皮腫での発現特異性に欠けると予測されたため、インテレクチンの発現誘導に関連する因子としては可能性が低いと考えられた。 SOX10とOct7について発現解析を行ったところ、これらの分子が中皮腫細胞で発現していることが確認された。また、SOXおよびOctファミリーは認識配列が類似しているため、ファミリー内の他の分子についても発現検討を行ったところ、それぞれのファミリーの複数の分子が発現していた。 エンハンサー領域配列を用いてゲルシフトアッセイを行ったところ、バンドシフトが見られ、当領域に結合する因子があることが推定された。しかし、複数のOctファミリー分子およびSOXファミリー分子の関与が疑われ、本研究期間内ではエンハンサー因子を絞り込むことは出来なかった。
|