【目的】本研究では虚血性心疾患での心臓痛動物モデル作成と、このモデルを用いて、in vitroでは虚血による知覚神経の興奮への関与が報告されているASIC3が、個体レベルで心臓の虚血による疼痛に関与しているか明らかにすることを目的とした。 【方法・結果】SDラット(200-400g)にイソプロテレノール(Iso、50mg/kg)を皮下投与したところ、血圧はIso投与1分後から有意な低下を、心拍数は増加傾向を示し、時間とともに回復した。心筋梗塞の肉眼的染色であるTTC染色では明らかな変化は見られず、心筋梗塞の血清マーカーであるCK-MBも変化がみられなかった。組織学的にはIso投与24時間後から心筋内に軽度の炎症性細胞の浸潤がみられた。Iso投与3分後には心電図上特異的な波形(ST低下)を示した。また組織の低酸素を検出できるHypoxyprobe-1を用いたところ、左室心筋では陽性反応がみられた。この反応は右室ではほとんどみられなかった。 Iso投与により体幹を伸ばしたり、四肢を伸ばして横たえるといった特異的行動がみられた。この行動はモルヒネ(1mg/kg)を前投与すると有意に減少した。また、神経の興奮を示すc-Fosを脊髄後角で免疫組織化学染色したところ、Iso投与により有意な増加を示し、モルヒネにより有意な減少を示した。ASIC3を含むASICsの非選択的拮抗薬であるAmilorideを前投与すると、この特異的行動とc-Fosのいずれも有意に抑えられることがわかった。 【まとめ】Iso投与により急性のβ作用を示し、心筋組織及び心電図から梗塞はみられないものの虚血及び軽度の炎症を示すことがわかった。Iso投与による特異的行動や脊髄でのc-Fosの発現は虚血による痛みを反映することが示唆された。Iso投与による心臓の虚血による痛みにはASICsが関与することがわかった。
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