研究課題
免疫/グリア細胞の異常環境センサーとして機能するTRPチャネル群の慢性疼痛への関与を明らかにするため、本年度は、研究が先行しているマクロファージあるいはミクログリアのTRPM2、ミクログリアのTRPV4およびアストロサイトのTRPC3について検討を行った。まずTRPM2について、炎症性疼痛モデルおよび神経障害性疼痛モデルの炎症部位および末梢神経損傷部位において、マクロファージおよび好中球でのTRPM2発現増加、TRPM2刺激となる過酸化水素の顕著な産生が認められた。また、当該部位での好中球の浸潤、好中球の遊走を促すケモカインCXCL2の産生等は、TRPM2遺伝子欠損マウスにおいて抑制された。同様の結果は、培養マクロファージを用いたin vitro実験でも確認している。これらの結果から、マクロファージに発現するTRPM2が過酸化水素により刺激され、CXCL2産生/好中球浸潤を促し、炎症/損傷部位での末梢神経の過敏化に寄与するものと考えられた。また、脊髄においても、ミクログリアでのTRPM2発現増加、TRPM2遺伝子欠損によるミクログリア活性化の抑制が認められた。また、培養ミクログリアでもCXCL2やiNOS、NO産生等の減少が認められ、その細胞内シグナルの一部にPyk2、p38、JNKが関与することを明らかにした。さらに、培養後根神経節細胞で、刺激した培養マクロファージとの共培養あるいは条件培地により、グルタミン酸の遊離が有意に増強された。また、ミクログリアのTRPV4について、TRPV4刺激によりミクログリア活性化が抑制されること、この作用にはTRPV4を介したNa+流入による脱分極が関与することを明らかにした。一方、アストロサイトのTRPC3について、選択的阻害薬pyrazole-3を神経障害性疼痛モデルラットの脊髄内に急性単回投与したが影響は認められなかった。
3: やや遅れている
初年度は計画通り、研究の先行しているミクログリアのTRPM2、ミクログリアのTRPV4およびアストロサイトのTRPC3について検討を行い、実験の進捗状況は概ね良好であると言えるが、TRPM2のセンサー的機能解析について、パッチクランプシステムの不調により実験を行うことができなかった。また一部、予想と異なり、TRPC3阻害薬の作用が見られないこともあった。
次年度は当初の予定通り、ミクログリアのTRPM2、ミクログリアのTRPV4およびアストロサイトのTRPC3について検討を継続するとともに、初年度に到達できなかった実験を追加して行う。また、他のTRPチャネルの関与についても検討を行うとともに、シュワン細胞/オリゴデンドロサイトの検討も開始する。
1. マクロファージあるいはミクログリアのTRPM2と慢性疼痛:TRPM2は神経細胞にも多く発現するため、上記の検討のみではその関与を否定できない。そこで、TRPM2遺伝子欠損マウスに野生型マウス由来の骨髄由来細胞を移植し、マクロファージ・ミクログリアのTRPM2の役割を検討する。また、初年度に実施できなかった、Ca2+蛍光測定やパッチクランプ法による電気生理学的解析により、TRPM2のセンサー的機能について、それらの分子機構を含め詳細に解析する。2、3. ミクログリアのTRPV4/アストロサイトのTRPC3と慢性疼痛:培養ミクログリアやアストロサイトを用いたTRPV4およびTRPC3の細胞機能調節機構、発現変動機構、脊髄切片培養系を用いた神経-グリア細胞間相互作用について解析する。TRPC3阻害薬の作用について、投与法やタイミングを変えて検討する。4. 免疫細胞、グリア細胞の慢性疼痛に関与する他のTRPチャネルの同定と評価:培養細胞において細胞活性化により発現変動するTRPチャネルを絞り込み、慢性疼痛モデルにおいて炎症/傷害部位あるいは脊髄後根神経節でのマクロファージ、あるいは脊髄内ミクログリア/アストロサイトにおいても同様の変化が認められるか確認する。候補TRPチャネルが見つかった場合、即座に上記と同様の手法で解析を開始する。また選択的な阻害薬がない場合には、遺伝子改変動物を入手し、慢性疼痛との関係を明らかにする。5. シュワン細胞/オリゴデンドロサイトの慢性疼痛に関与するTRPチャネルの同定と評価:シュワン細胞/オリゴデンドロサイトの培養系を確立し、TRPチャネルの発現確認、ミエリン産生や分化マーカー発現への影響を検討し、さらに慢性疼痛モデルで発現が変動するTRPチャネルの同定を行う。候補TRPチャネルが見つかった場合には、即座に上記と同様の手法で解析を行う。
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