昨年度までに、マクロファージおよびミクログリアに発現するTRPM2について、炎症性疼痛や神経障害性疼痛の関与を明らかにしてきた。本年度は、TRPM2が関わる慢性疼痛の種類を検討し、上記の慢性疼痛モデル以外に、糖尿病性神経障害、抗がん剤誘発末梢神経障害、変形性関節痛、実験的自己免疫性脳脊髄炎など神経炎症応答が基盤となる慢性疼痛モデルではTRPM2が関与するが、術後痛モデル、カプサイシン誘発疼痛行動など侵害受容性疼痛における関与は認められなかった。また、マクロファージ/ミクログリアのどちらのTRPM2が寄与が大きいかを検討するため、野生型/TRPM2-KOマウス間で骨髄キメラマウスを作成し、神経障害性疼痛への寄与を検討した。その結果、骨髄由来細胞(マクロファージ)のTRPM2をKOした場合、レシピエントマウス(ミクログリア)のTRPM2をKOした場合、どちらも神経障害性疼痛は抑制された。また、いずれのキメラマウスにおいても、損傷した末梢神経周囲へのマクロファージの浸潤に差は認められなかったが、脊髄内へ浸潤するマクロファージの数が有意に減少した。一方、脊髄の常在性ミクログリアに変化は認められなかった。これらの結果から、TRPM2は末梢神経損傷時のマクロファージの脊髄内浸潤に関与し、神経障害性疼痛に寄与することが示唆される。 また、アストロサイトのTRPC3について、その選択的阻害薬Pyr-3により、コラゲナーゼあるいは自家血による脳内出血モデルでの脳障害、脳浮腫や神経/運動機能障害が改善するとともに、血腫周辺部のアストロサイトおよびミクログリアの活性が有意に抑制された。また、ミクログリアのTRPV4だけでなく、TRPV1も遊走や貪食能に関与することを見出した。また、培養オリゴデンドロサイトにおけるTRPチャネルの発現を解析し、複数のTRPチャネルが発現していることを確認した。
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