研究課題/領域番号 |
23790643
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
岡 達郎 島根大学, 医学部, 助教 (20508923)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 中心灰白質 / 辺縁系 / 視床下部 / 扁桃体 / 大縫線核 / 下行性疼痛抑制系 / 神経回路 / ラット |
研究概要 |
本研究は下行性疼痛抑制系を構成する神経路のうち、中脳中心灰白質から大縫線核へ至る神経路への辺縁系入力を形態学的に検討することによって、情動による疼痛修飾機構の解明に迫ることを目的として計画した。 本年度はまず、痛覚刺激によって Fos 蛋白を発現するニューロンと大縫線核へ投射するニューロンの中心灰白質における分布の異同について検討した。実験では、大縫線核に逆行性標識物質である CTb を電気泳動的に微量注入したラットを用いて、足趾にホルマリンを微量注入することで痛覚刺激を与え、免疫組織化学的に CTb および Fos 蛋白を検出した。その結果、中心灰白質において Fos 蛋白陽性ニューロン、CTb 標識ニューロンが認められ、その分布の一致を確認したが、二重標識ニューロンはほとんど認められなかった。そこで現在は、下行性疼痛抑制系を構成する要素のうち、橋被蓋背外側部のノルアドレナリン作動性ニューロン群、特に A6(青斑核)および A7 に着目し、これらの領域に CTb を注入して、逆行性に標識された CTb 標識ニューロンと Fos 蛋白陽性ニューロンの中心灰白質における分布の異同についても検討しているところである。 次に、同一のラットに対して視床下部腹内側核に順行性標識物質である BDA を、大縫線核に CTb を電気泳動的に微量注入し、組織化学的に BDA 標識線維および終末を、免疫組織化学的に CTb 標識細胞を検出した。その結果、視床下部腹内側核からの投射線維と、大縫線核へ投射する CTb 標識ニューロンの分布領域の一致を中心灰白質の各領域に認めた。この領域内では、投射線維が CTb 標識ニューロンの細胞体や樹状突起に接する像が多数認められ、両者の間にシナプスが形成されている可能性が示唆された。現在、電子顕微鏡レベルでこのシナプス形成の存在を確認しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大縫線核へ投射する中心灰白質ニューロンへの視床下部腹内側核からの入力様式についての光顕的解析についてはほぼ計画通り進行している。すなわち、同一のラットに対して視床下部腹内側核に BDA を、大縫線核にCTbを注入した場合、中心灰白質の背側部、及び外側・腹外側領域において両者の分布領域が一致するのを確認した。この領域においてBDA標識終末とCTb標識ニューロンが近接している像を多数確認した。さらに、これらの領域を電子顕微鏡下で観察したところ、両者の間に形成されるシナプスの多くが非対称性のシナプスであることを確認した。これは視床下部腹内側核から中心灰白質へ至る神経路が興奮性神経伝達物質を有することを示唆するものである。今後はさらに例数を増やして電子顕微鏡的解析のデータを確実なものにするとともに、グルタミン酸作動性ニューロンのマーカーである小胞性グルタミン酸トランスポーターに対する in situ ハイブリダイゼーション法や免疫組織化学を上記神経路標識法と併用することによって、伝達物質の同定を進めていく。一方で、大縫線核へ投射する中心灰白質ニューロンへの扁桃体入力については光顕的・電顕的に充分なデータを得られておらず、今後解析を更に進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
下行性疼痛抑制系は大きく分けてセロトニン系(中心灰白質-大縫線核-脊髄後角)とノルアドレナリン系(中心灰白質-橋被蓋-脊髄後角)の2つの神経路が知られている。しかし、痛覚刺激によって Fos 蛋白を発現するニューロンと大縫線核へ投射するニューロンの中心灰白質における分布の異同について検討したところ、中心灰白質において Fos 蛋白陽性ニューロンおよびCTb 標識ニューロンはそれぞれ多数認められたが、二重標識ニューロンはほとんど認められなかった。そこで、下行性疼痛抑制系を構成する神経路のうちノルアドレナリン系(特にA6(青斑核)とA7)についても検討を進めることとした。すなわち、逆行性標識物質である CTb をこれらの領域に注入し、中心灰白質において CTb により標識されたニューロンと Fos 蛋白陽性ニューロンの分布の異同について検索を行なっていく。さらに、これらの下行性疼痛抑制系への辺縁系入力については視床下部腹内側核および扁桃体中心核からの入力様式について光顕的・電顕的解析を進めるとともに、これらの神経路を構成する神経伝達物質については in situ ハイブリダイゼーション法や免疫組織化学的手法を用いて解析を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述したように、中心灰白質を発する下行性疼痛抑制系を構成する神経路のうち、大縫線核へ投射する経路については Fos 蛋白との二重標識を示すニューロンが中心灰白質ではほとんどみられなかったことから、必要なデータを得るのに要する試薬等が想定を下回り残額が生じた。次年度は当初の計画に加えて、下行性疼痛抑制系を構成する神経路のうち中心灰白質から橋被蓋背外側部のノルアドレナリン作動性ニューロン群(A6および A7)への投射についても検討を進めていく予定であり、前年度残額分(363,680円)についてはこれらのノルアドレナリン作動性ニューロン群を同定するために用いる抗体等の試薬の購入、および追加で必要となる実験用動物の購入・飼育費用に充てる。その他、次年度に使用する予定の研究費については、電子顕微鏡的解析や in situ ハイブリダイゼーション法を用いた解析を計画通り進めていく予定であり、これらの実験に必要な試薬等の購入に充てるとともに、研究成果を発表するために、学会参加の旅費および論文別刷りの費用に充てる。
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