本研究は下行性疼痛抑制系を構成する神経路のうち、中脳中心灰白質から大縫線核へ至る神経路への辺縁系入力を形態学的に検討することによって、情動による疼痛修飾機構の解明に迫ることを目的として計画した。 本年度は前年度に引き続き、順行性および逆行性神経路標識法を用いて、大縫線核へ投射する中心灰白質ニューロンへの視床下部腹内側核入力の解析を進めた。視床下部腹内側核から順行性に標識された線維終末と、大縫線核から逆行性に標識されたニューロンの分布が中心灰白質の外側部および背内側部で一致することを確認した。本年度は上記神経路について電子顕微鏡レベルでの解析を進め、両者の間に非対称性シナプスが形成されていることを確認した。 次に、逆行性標識法と in situ ハイブリダイゼーション法を併用することによって、大縫線核へ投射する中心灰白質ニューロンが有する神経伝達物質について解析した。その結果、大縫線核へ投射する中心灰白質ニューロンの大部分が VGLUT2 mRNA 陽性であったことから、このニューロンはグルタミン酸を神経伝達物質とする興奮性ニューロンであることが示唆された。 さらに、侵害刺激を与えることによって c-Fos 蛋白を発現する中心灰白質ニューロンの化学的性質について、in situ ハイブリダイゼーション法を用いて検討した。その結果、VGLUT2 mRNA 陽性を示す c-Fos 陽性ニューロンは中心灰白質の主に背側部から外側部にかけての領域に分布する一方で、GAD67 mRNA 陽性を示すc-Fos陽性ニューロンは中心灰白質の主に外側部から腹外側部の領域に分布する傾向が認められた。このことから、中心灰白質の背側部・外側部のグルタミン酸作動性ニューロン、および中心灰白質の外側部・腹外側部の GABA 作動性ニューロンが侵害刺激によって活性化することが示唆された。
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