平成23年度までに神経障害性疼痛モデル動物の脊髄内で発現変動するマイクロRNAを見出していたが、変動したマイクロRNAのターゲット予測とDNAマイクロアレイの解析結果、及び脊髄標本の免疫染色結果から骨髄由来マクロファージの分化に関与するとされる転写因子mafbの発現増加がミクログリア特異的に起こっていることが示唆された。 末梢神経切断後、一部の脊髄ミクログリアの核内でMafB発現は顕著に増加しており、 MafB陽性ミクログリアは、末梢神経損傷後1日目から観察され、増殖マーカーおよび活性化表現型マーカーCD68の局在と一致していた。培養ミクログリアにおいてsiRNAによってMafb遺伝子をノックダウンすると、痛みに関連した遺伝子の発現レベルが低下した。 神経障害性疼痛モデルマウスに対しsiRNAをマウス脊髄腔内に投与することによってミクログリアにおけるmafb発現増加を抑制すると、モデル動物における疼痛関連行動が有意に抑制された。また、この動物における脊髄内での疼痛関連遺伝子の発現量は対照群に対して抑制することをリアルタイムPCR法を用いて確認した。傷害を受けた後根神経より産生放出されるケモカインの一つであるCCL21は、in vitroおよびin vivo両方の試験においてミクログリアのMafB発現を増強した。本研究結果は、MafBは末梢神経傷害後の活性化ミクログリアに誘導され、疼痛発症に関与する重要な転写因子であることを示唆している。
|