研究課題/領域番号 |
23790646
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
大澤 匡弘 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80369173)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 慢性疼痛 / 視床 / グリア細胞 / 神経伝達 / グルタミン酸 / gabapentin |
研究概要 |
慢性疼痛は、患者にとっても医療者にとっても大変悩ましい問題である。多くの研究が展開されているが、満足の行く治療法は確立されていない。痛みは脳で認識されるが、これまでの慢性疼痛の研究は痛みが伝わる経路である脊髄機能の解析が中心であった。しかし、脳内で痛みが感じやすくなると、脊髄や末梢において痛み伝達亢進の改善を行なっても、その効果は限定的になる。そこで、本研究では、慢性疼痛モデル動物を用いて、脳内の痛み伝達経路の変化について検討を行った。まず、脳内の神経伝達を抑制することにより痛みが緩和されるかについて検討した。感覚神経を部分的に障害すると、痛みを感じやすくなる。この動物モデルに対して、神経伝達を抑制するgabapentinを毎日繰り返し脳室内へ投与したところ、慢性疼痛モデル動物の痛みに対する感受性の亢進(痛み閾値の低下)が改善し、神経を障害していない動物とほぼ同程度の痛み閾値となった。一方、gabapentinの単回投与では、この神経障害モデル動物にみられる痛み閾値の低下に影響は認められなかった。また、神経障害による痛み閾値の低下が出現した後にgabapentinを投与しても改善作用が認められた。これらのことから、神経障害により痛みを感じやすくなった動物は、脳内においても痛み刺激に対する感受性の亢進が生じていることが明らかになった。さらに、慢性疼痛による脳内の神経系細胞の変化について、免疫組織化学的に検討したところ、グリア細胞の中でもミクログリアの形態変化が著しく認められ、この変化は、脳内において痛みの情報を中継する視床において顕著であった。これらのことから神経障害により視床においてミクログリアが活性化し、痛みに対する感受性が亢進する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、慢性疼痛モデルにおいて神経系細胞の機能が変化していた脳部位を同定し、その部位での炎症性サイトカイン類の発現変化を解析する予定であった。実際に、脳内での神経系細胞の解析解析を免疫組織化学的手法により行ったが、変化が見られた慢性疼痛モデルを見つけるまでに時間を要した。また、炎症性サイトカイン類の発現変化を確認するためにELISA法に従い検討を行う予定であったが、予算の関係で簡便なPCR法を用いた遺伝子発現の変動を検討することにした。申請者はリアルタイムPCRを行うために必要な機器類を保有していたが、研究開始時には他の施設にあり、移設するまでに時間を要した。装置の移動が年度末に近かったため、その条件設定などが最近ようやく完了し、mRNAの発現量を解析できるようになった。現在、これまでの研究の遅れを取り戻すために、慢性疼痛モデル動物において神経系細胞に形態学的な影響が見られた視床における炎症性サイトカイン類のmRNA発現の網羅的解析をリアルタイムPCR法にて行い、発現が変化している炎症性サイトカイン類を早急に同定し、ELISA法にて検討を解析できるよう準備を整えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から、慢性疼痛により脳内の神経系細胞機能が変化することが明らかになった。他のグループなどの研究結果などから慢性疼痛による神経系細胞の機能変化は痛み伝達に対して促進的に作用することが多い。そこで、脳内における神経系細胞の形態変化が神経伝達に対しどのように影響を及ぼすのかを明らかにし、神経伝達亢進のメカニズムの一端を明らかにする。さらに、gabapentinが脳内に作用して痛覚伝達の亢進を抑制することが前年度の検討より明らかになったことから、その作用発現における分子メカニズムを明らかにする。また、活性化したミクログリアやアストロサイトによる神経伝達の亢進作用が、炎症性サイトカイン類による神経伝達物質の遊離促進やシナプス後の受容体感受性亢進といった、これまでの定説に従った反応によるかについて検証を加える。グリア細胞には、細胞外環境の急激な変化から神経細胞を保護するという役目があるが、痛み刺激の持続的な入力上昇により、グリア細胞の本来行うべき機能が、どのように変化するかについても研究を進めていく。神経伝達の亢進メカニズムの解明は、慢性疼痛などの病態だけではなく、認知症などの神経伝達が減弱して発症する疾患の治療に対しても、新しい知見を加えるものと期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
痛覚伝達や慢性疼痛における脳内の炎症性サイトカイン類の役割を明らかにするため、行動薬理学的検討を行う。行動薬理学には、実験動物(ICR系雄性マウス)を約200匹使用する。その飼育代や投与する薬物、抗体類などを含めて67万円を計上した。炎症性サイトカイン類の測定やタンパク質の発現などの解析するための分子生物学的検討に使用する試薬類やガラス・プラスチック器具類を20万円計上した。さらに、ウエスタンブロットを行う際の抗体として、3本(1本6万円;計18万円)を計上した。また、mRNAを測定するPCR法では酵素類やキット類が必要になるために、10万円計上し、物品費として合計115万円を計上した。学会参加費として、福岡で開催される第86回日本薬理学会5万円を計上した。
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