慢性疼痛に悩まされる国民は2200万人おり、その治療は満足のいくものになってはいない。慢性疼痛の中でも神経の損傷に伴う痛みである神経障害性疼痛は、既存の鎮痛薬では緩和することが難しい疼痛の一つである。疼痛は、不快な感覚情報として、脳において認識される。つまり、感覚情報と情動情報の二つの側面を有しており、いずれかの情報がなくなると、疼痛として感じられなくなると考えられている。これまでに情動性の入力を調節するよ疼痛として感じられた感覚が、どのように変化するのかに関する基礎的検討は行われていなかった。そこで、本研究では神経障害性疼痛モデルを作製し、情動性に関わる脳領域での神経系細胞の機能変化とその調節による疼痛緩和の可能性について検討を行った。神経障害性疼痛モデルマウスでは、大脳の帯状回皮質においてミクログリアならびにアストロサイトの活性化が認められた。次に、ミクログリアの活性化を調節する薬物であるミノサイクリンの効果を検討したところ、帯状回皮質への処置により神経障害による痛覚閾値の低下が抑制された。このことから帯状回皮質におけるミクログリアの活性化は神経障害による痛覚過敏の発現に関与することが明らかになった。また、ミクログリアの抑制は、アストロサイトの活性化も抑えた。さらに、興奮性の神経伝達に関わるグルタミン酸神経の受容体機能の神経障害による亢進も、ミノサイクリンにより改善した。これらのことから、神経障害により帯状回皮質においてミクログリアが活性化し、この脳領域での興奮性神経伝達を亢進させるため、痛覚過敏が生じていることがわかった。この結果は、情動を司る脳領域の機能調節により疼痛が緩和されることを示しており、痛覚伝達の直接的な制御では治療が困難である神経障害性疼痛の治療において情動を司る脳領域の興奮性を低下させる治療法が有効である可能性を示唆している。
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