研究課題
痒みは痛み以上に耐え難い感覚であるにもかかわらず、脊髄における痒み情報伝達の詳細は不明である。そこで、脊髄後角からin vivoパッチクランプ法を行い、皮膚への痒み刺激により誘起されるシナプス応答の詳細な解析を行った。昨年度までの実験から、セロトニンの皮膚への投与によって痒み行動が誘発され、一部の膠様質細胞でEPSCの頻度を増加させることが明らかとなった。今年度は、セロトニン応答細胞と非応答細胞の特徴を調べるために細胞の位置、発火パターンなどの電気生理学的特性の解析などを行った。まず、セロトニン応答細胞と非応答細胞の脊髄表面からの距離を測定したところセロトニン応答細胞は有意に浅い層に局在していた。更に神経興奮のマーカーであるc-fosを用いた実験からセロトニン塗布により脊髄浅層にc-fos陽性細胞が局在しており、電気生理学的結果と一致していた。次いで、セロトニン応答細胞と非応答細胞の電気生理学的特性を解析した。膠様質細胞では、delayed、tonic、phasic、initialの4つの発火パターンが記録できた。セロトニン応答細胞ではdelayed firing、tonic firingの割合が多い傾向にあった。一方、静止膜電位などでは有意な差は認められなかった。以上のことから、皮膚へのセロトニン投与によって末梢で発生した活動電位が一部の脊髄浅層の膠様質細胞にシナプス入力しEPSCの頻度を著明に増加させることが明らかとなった。更にセロトニン応答細胞はdelayed firing、sustained repetitive firingを示す傾向が見られた。これら脊髄におけるシナプス応答の詳細な報告は現在までになく、今後痒みのシナプス伝達機構の解明に非常に重要な結果であると思われる。これらの研究結果は、北米神経科学会をはじめ国内外の学会で発表を行った。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 1件)
Molecular Pain
巻: 8 ページ: -
10.1186/1744-8069-8-58
The Journal of Functional Diagnosis of the Spinal Cord
巻: 34 ページ: 58-64