研究課題/領域番号 |
23790653
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
江藤 圭 生理学研究所, 発達生理学研究系, NIPSリサーチフェロー (30545257)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 慢性疼痛 / 2光子顕微鏡 / 体性感覚野 / カルシウムイメージング |
研究概要 |
慢性疼痛は中枢神経系における神経細胞の異常活動によって生じている。近年、脊髄のみならず、大脳皮質も慢性疼痛処理に関与することが分かってきた。本研究では疼痛関連領域、一次体性感覚野(S1)第2/3層興奮性神経細胞の慢性疼痛における役割を明らかにすることを目的としている。まず、2光子顕微鏡を用いたin vivoカルシウムイメージングを行い、正常と慢性疼痛における2/3層興奮性神経細胞活動を麻酔下マウスより記録した。その結果、慢性疼痛群では感覚刺激に対する反応性が著しく増大していた。また、4層刺激により誘発されるカルシウム応答も慢性疼痛群で亢進することから、慢性疼痛時には4層―2/3層興奮性細胞間において可塑的変化が起きており、これが興奮性細胞の過剰活動に寄与することが示唆された。慢性疼痛におけるS1の2/3層興奮性細胞過剰活動の疼痛行動への寄与を検討するために、S1活動を抑制し、慢性疼痛行動への影響を検討したところ、慢性疼痛行動が減弱した。このことからS1の過剰な神経活動が疼痛行動を誘発することがわかった。慢性疼痛時にS1の出力細胞である2/3層興奮性細胞の過剰活動が起きることから、他の疼痛関連領域活動を変化させている可能性が考えられる。本研究では、S1の疼痛誘発機序として、疼痛関連領域・前帯状回(ACC)とS1の相互作用に着目した。麻酔下マウスのACCから神経活動を記録すると、慢性疼痛群では、S1活動抑制により、ACC活動が減弱した。また正常群のS1活動を亢進させるとACC活動も亢進した。これらの結果から慢性疼痛時にはS1出力細胞の過剰活動がACC活動を増強させることで疼痛行動が誘発されることが示唆された。これらの結果は大脳皮質に着目した新しい慢性疼痛治療法の確立の一助となるだけでなく、皮質間相互作用に関する新たな生理学的知見として重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
23年度では申請書に記載していた内容の23-24年度の内容の大部分を遂行することができ、その結果も論文報告することができたことから、計画以上に進展していると考えている。2光子イメージング法や電気生理学的手法、行動実験などの手法がすでに確立していたことが大きな要因であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
S1興奮性神経回路の可塑的変化が疼痛行動に重要な役割を担うことがわかったが、このような可塑的変化が起きる機序はわかっていない。申請者は慢性疼痛時のS1アストロサイトが過剰活動を示すことを見つけており、アストロサイトの過剰活動が神経回路再編に寄与するかどうかを検討する。また、S1興奮性細胞の過剰活動が起きる原因として抑制性神経細胞の機能不全の可能性も考えられる。この可能性についても検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は主に様々な試薬類と動物購入に予算を使用する予定である。具体的には、アストロサイト活動や抑制性神経細胞活動をin vivoで観察するためのカルシウム蛍光指示薬、可塑的変化の機序を調べるための試薬類、遺伝子導入により蛍光蛋白発言や蛋白量操作を行うための試薬類などが必要である。
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