研究課題
申請者らはこれまで、肥満や糖尿病患者で見られる遊離脂肪酸の量的な増加だけでなく、脂肪酸分画の質的な変化と心血管イベントの発症リスクとの関係に着目してきた。その結果、飽和脂肪酸を一価不飽和脂肪酸に変換する酵素であるStearoyl-CoA Desaturase-1 (SCD1)が、飽和脂肪酸による心筋傷害や血管石灰化に対して抑制的に働くことを明らかにした[PLoS ONE 2012]。次に我々は、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸の鎖長を伸長させる酵素であるElongation of long chain fatty acid 6 (Elovl6)に着目した。ヒトおよびマウスの血管におけるElovl6の発現を調べたところ、血管平滑筋細胞に発現が多く認められ、さらに動脈硬化初期の新生内膜においてElovl6の発現が著明に増加することも明らかにした。また、血管平滑筋細胞を増殖型へ脱分化させるPDGF-BB刺激によって、Elovl6の発現が著明に誘導されることも見出した。さらに、培養血管平滑筋細胞にsiRNAを用いてElovl6をノックダウンさせると、細胞増殖に対して抑制的に作用し、増殖抑制因子であるp21、phospho-AMPKの誘導や、増殖促進因子であるmTOR、phospho-Aktの減少も認めた。この酵素の働きを裏付けるため、Elovl6をノックダウンさせた平滑筋細胞における脂肪酸分画を測定してみたところ、C16:0の飽和脂肪酸であるパルミチン酸が増加し、C18:1不飽和脂肪酸であるオレイン酸の減少を認めた。また、パルミチン酸を血管平滑筋細胞に添加すると、細胞増殖の抑制、p21、phospho-AMPKの誘導を認めた。以上より、Elovl6による細胞内の脂肪酸分画の変化が、動脈硬化の発症・進展に深く関与していることが示唆された[AHA 2012にて発表]。
3: やや遅れている
23、24年度にSCD1欠損マウスの解析を行い、その結果を基にして心血管病予防戦略を検討する予定であったが、その欠損マウスがホモ同士の交配では子供がほとんど生まれず、ホモ×ヘテロの交配でホモ欠損マウスが1/4程度生まれるような状況であり、予定していた実験解析が十分に出来るほどのマウスが得られなかった。また、Elovl6ノックアウトマウスに関してもホモ欠損マウス部分胎生致死であり、さらに生まれてくるマウスも出生後3~4週程度で死亡する個体がしばしば認められるため、こちらも十分な匹数のマウスが得られなかったことが達成度の遅れにつながっている。
SCD1、Elovl6欠損マウスに関しては、これまでの繁殖体制の見直し、交配の数を増やすなどの対応を行い、実験に必要なホモ欠損マウスを確保することが課題となる。病態モデルマウスの作成に関しても、実験に必要なマウスが確保でき次第、順次進めていきたい。
平成25年度に繰り越した研究費に関しては、平成23、24年度で十分に出来なかった動物実験に関する飼育費や解析費用に充てる予定である。・マウス飼育費、動物飼育用特殊飼料・病態モデル動物、欠損マウスなどの心臓・血管・血液サンプル、培養細胞サンプルにおける血液・組織内脂肪酸分画の測定・PCR用試薬、抗体、初代培養細胞試薬など
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