1955年夏ヒ素を混入したミルクによる食中毒が西日本中心に発生した。乳幼児期の一点曝露での食中毒は歴史上ないことであり、ヒ素が乳幼児へどのような影響を及ぼしたのかを科学的に解明することが、今後このような被害を防止する上で貴重な教訓となり得る。しかしながら、従来の研究では、神経系やがんマーカー等への影響の詳細な研究は不十分であった。今回発達期にヒ素曝露を受けた集団を対象として、ミルク飲用と発がん・神経学的所見・各種生物学的マーカー・臨床データとの関連を検討するパイロット研究を行った。 平成25年度は、平成24年度に行った計50名の調査に関する資料整理や検体の処理を行った。調査は平成24年4月24日から平成25年2月26日の期間行い、対象者数は、ヒ素混入ミルク飲用群が27名、非飲用群が23名であった。それぞれの対象者から、身体所見、心血管系機能評価、神経所見、神経認知行動学的検査、神経生理学的検査、血液検査などの所見を取得した。結果として、対象者の属性において飲酒、学歴、就労状況で異なる点があること、身体所見で身長に差があること、神経学的診察で判定に差があること、神経認知行動学的検査結果でいくつかの項目で差があること、神経生理学的検査では差がさほどはっきりしないこと、血液検査結果でヘモグロビンとアルカリフォスファターゼの値に差があることが判明した。また、尿中ヒ素濃度測定及びエピジェネティック(epigenetic)マーカー測定の為の生体資料に関しては冷凍保存の後、共同研究機関であるアメリカの国立衛生研究所へ空輸し、現在解析中である。
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