研究課題/領域番号 |
23790669
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
与五沢 真吾 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70381936)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 食品成分 / 癌予防 / 細胞周期 / シグナル伝達経路 / MEK-ERK経路 / PI3K-AKT経路 / CDK阻害因子 |
研究概要 |
細胞増殖を亢進するリン酸化シグナル伝達経路、MEK-ERK経路とPI3K-Akt経路は多くの癌細胞において異常亢進がみとめられ、癌治療における重要な分子標的として注目されている。近年、マウス発癌モデルによる研究から、これらの経路の異常亢進が発癌を促進することが示唆された(Nature Med.16:665, 2010)。本研究は、癌予防効果が期待される食品成分をこの両シグナル伝達経路の抑制能という観点から見直し、その分子機構の解明と合理的な適用により、食品成分による科学的根拠に立脚した効果的な癌予防法の確立を目指す。本年度はキャベツやブロッコリー等のアブラナ科野菜に含まれるブラシニンが、ヒト大腸癌細胞HT-29に対しPI3K-Akt経路を阻害することにより細胞増殖を抑制することを見出し、報告した。細胞周期を解析すると、G1期停止が誘導されることが判明した。このときCDK阻害因子であるp21、p27の発現上昇がみとめられ、これらをsiRNAでノックダウンするとブラシニンの細胞周期停止効果が抑制された。またp21、p27の発現上昇がPI3K-Akt経路依存的であり、Aktの恒常的活性化変異体の導入によってもブラシニンの細胞周期停止効果が抑制されたことなどから、ブラシニンはPI3K-Akt経路を阻害することによりCDK阻害因子を誘導し、G1期停止を起こすことで細胞増殖を抑制すると考えられた。また、MEK-ERK経路の阻害効果等が報告されているクルクミンの半量体であり、ショウガ等に含まれるデヒドロジンゲロンについて細胞増殖抑制効果を見出した。他にも、いくつかのPI3K-Akt経路やMEK-ERK経路を阻害する食品成分(ローズマリー含有成分など)に対し、併用することで細胞増殖抑制効果を増強させる食品成分を見出し、その分子メカニズムについて現在解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラシニンがPI3K-AKT経路を阻害することで細胞増殖を抑制すること、複数のPI3K-AKT経路やMEK-ERK経路を阻害する食品成分について、これらの細胞増殖抑制効果を増強できる食品成分の組合せを見出せたこと等を考えれば、1年目の進展状況としては概ね順調ではないかと考えている。 しかしながら、増殖抑制効果の増強が見出せた組合せについて、PI3K-AKT経路またはMEK-ERK経路阻害の細胞増殖抑制効果に対する影響の強さについては、まだ評価が不十分である。食品成分はマルチファンクショナルな活性を有している場合が多く、様々な経路に対して影響を及ぼしていると考えられるため、PI3K-AKT経路やMEK-ERK経路とは別の経路の関与が強く、それらが複合的に細胞増殖抑制効果を高めている可能性も考えられる。今後は個々の食品成分の性質に応じて調べるべき項目を精査し、柔軟な対応を行わなうことが、併用効果に関する真の分子メカニズムを解明する上で必要なことだと感じている。このような状況をふまえて、PI3K-AKT経路とMEK-ERK経路阻害の両経路をそれぞれ食品成分により阻害することにより、細胞増殖抑制効果を増強させる組合せの探索も継続していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
癌細胞の増殖抑制能について食品成分の併用効果が十分にみとめられる組合せを見出せたことは大いに意義があると考えている。既に細胞増殖抑制効果を増強することがみとめられた組合せに関しては、今後も分子的解析を継続し、メカニズムを判明したいと考えている。特に、併用効果の原因としてのPI3K-AKT経路やMEK-ERK経路の意義について検証していきたい。そこで、今後はPI3K-AKT経路やMEK-ERK経路に対する特異的阻害剤を用い、細胞がどのようなレスポンス(細胞周期停止、アポトーシス、調節因子の発現変化など)をするのかを明らかにした上で、それらの挙動を食品成分を作用させた場合と比較検討していく。この手法は、PI3K-AKT経路とMEK-ERK経路阻害の両経路が阻害されたことにより、細胞増殖抑制効果を増強させる食品成分の組合せの探索にも活かせるはずである。 また、既に併用効果が確認され、分子メカニズムがある程度判明した組合せに関しては、動物実験を行い、in vivoでの効果を検証していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
分子細胞生物学的解析に必要な細胞培養用培地、牛胎児血清や抗生物質類に加え、各種特異的阻害剤や遺伝子導入に必要な試薬類、ウエスタンブロッティングに用いる抗体や検出試薬を購入する予定である。また先述したように動物実験も予定しているので、マウスやその飼料、また併用条件検討に必要な量の食品成分についても購入する計画である。
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