本研究ではフラボンや分子標的薬(PI3K阻害剤やHDAC阻害剤)が、変異や欠損によりRBが機能しない癌細胞に対しても、G1期停止を誘導することを明らかにした。RBの機能しないヒト前立腺癌細胞DU145に対してフラボンや分子標的薬はG1期停止を誘導することが判明した。同様にRBが機能していない他の癌細胞種(HTB9:膀胱癌細胞、Saos-2:骨肉腫細胞)に対してもフラボンはG1期停止誘導効果を示した。そこで、G1期停止関連タンパク質の挙動を調べたところ、p21やE2Fファミリーなどいくつかのタンパク質の発現量に変化があることがわかった。さらにRBファミリーであるp130、p107の活性型フォームが観察された。フラボンによるG1期停止におけるRBファミリーの関与を、RBファミリーをノックアウトしたマウス繊維芽細胞を用いて検討したところ、RBファミリーがこの細胞周期停止に関与していることが示唆された。また、E2Fタンパク質の発現量低下が観察されたことから、癌抑制的に働くmicroRNAであるmiR-34aを測定したところ、フラボンはmiR-34aの発現上昇を誘導することがわかった。さらに、当該効果におけるmiR-34aの寄与を調べた結果、一部miR-34aがフラボンにおけるG1期誘導停止に関与していることが示唆された。従来G1期停止はRBを介した経路でのみ誘導されると考えられていたが、フラボンや分子標的薬がRB非依存的にG1期停止を誘導することを見いだした。そのメカニズムとしてRBファミリーであるp130、p107の活性化が考えられる。これらのことからRBのステータスは治療や予防において問題にならないことがわかった。また、食品成分によるmicroRNAの誘導が可能であることが示唆されたため、microRNAをターゲットとした癌予防戦略は有効であると考えられる。
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