研究概要 |
研究目的: 獣医療を介したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染拡大の防止を目的に、獣医師等の職業上のMRSA感染リスク因子と予防因子を特定するため、疫学解析および分子疫学解析を行った。 研究方法: 犬や猫の診療に従事する獣医師および動物看護師(VT)の鼻腔スワブからMRSAを分離し、SCCmec type、spa typeおよびMLSTによるSTを決定した。また、獣医師らの診療頭数など診療内容(6項目)、MRSA症例との接触歴(2項目)、手指消毒など衛生管理(7項目)、その他18項目について調査し、MRSA保菌との関連を調べた。 結果: 1)一般の動物病院では、獣医師22.9%(22/96)およびVT 10%(7/70)からMRSAが分離された。2)大学付属動物病院(3病院)では、獣医師12%(6/50)からMRSAが分離された。3)分離されたMRSAの大半が日本における人の医療現場で院内感染の原因となっているST5-spa t002-SCCmec IIであり、それ以外に、ST30-spa t021-SCCmec IV, ST380-spa t1852-SCCmec IVなどが認められた。4)メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)が高率に分離され、その大半が、Staphylococcus epidermidis(MRSE)であった。5)MRSEには、非典型class B mec複合体をもつ株が認められ、その構造は、MRSA(ST72-spa t324-SCCmecIV)のmec複合体と相同性が高かった。6)単変量解析により特定されたMRSA保菌に影響した項目は診療頭数(P=0.049)であったが、予防要因として有意な変数は認められなかった。 考察: 診療時のマスク着用や症例ごとの手指消毒の実施率は低く、獣医療におけるMRSA予防因子は特定できなかった。
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