アスベスト(石綿)曝露は悪性中皮腫や肺癌を引き起こす。石綿の発癌作用はよく知られているが、一方で癌疾患の抑制に働く生体防御機能のひとつである抗腫瘍免疫機能への石綿曝露影響は不明な部分が多い。平成24年度は、石綿曝露指標である胸膜プラーク陽性者、悪性中皮腫患者、及び健常人のCD8+リンパ球機能を調べた。3群でIFN-gamma産生能、脱顆粒能、及び刺激前のgranzyme B+細胞比率について差はなかったが、胸膜プラーク陽性者と悪性中皮腫患者の両群では刺激前のCD8+リンパ球中のperforin+細胞比率とCD45RA-細胞比率の高値を示し、石綿曝露者に共通するeffector/memory cells優位の抗腫瘍免疫能の特徴が示された。更に、悪性中皮腫患者では胸膜プラーク陽性者に比べて刺激後のperforin+細胞比率の著しい減少を認めた。本研究成果は、CTLの抗腫瘍免疫能への石綿曝露影響の存在を示すとともに、悪性中皮腫患者において刺激後の細胞傷害性が低下していることを示唆する。また、平成23年度の研究成果に加えて、今回新たに症例数を増やしたところ、これまでと同様に、胸膜プラーク陽性者では健常人に比べて、刺激後のCD8+T細胞のgranzyme B+細胞比率及びperforin+細胞比率が高値を示すことがわかった。胸膜プラーク陽性者ではCD8+T細胞の抗腫瘍免疫機能が十分に働くことを示す。これらの成果が悪性中皮腫発症の早期予防につながる各種CTL機能検査法の確立にむけて、重要な知見となると考えられる。
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