研究概要 |
ジメチルアセトアミド(DMAC)は、樹脂や医薬品等の反応溶剤や洗浄剤として工業的に幅広く使用されている溶剤である。従来の許容濃度と同レベルで肝障害に陥る可能性のあるDMACについて次の2つの事を検討する(1)DMACの代謝に係ることが推察される薬物代謝酵素(CYP2E1)遺伝子に注目し、DMAC曝露によるCYP2E1を介した肝障害発生メカニズムの解明、(2)DMAC職域ばく露者を比較し、肝障害発生とCYP2E1多型による毒性メカニズムを明らかにすし、曝露に対する予防方法の確立や許容濃度の再評価、管理濃度の策定を行うための資料として役立てる。 野生型マウスとCYP2E1-null型マウスを用い、DMAC濃度を0, 25, 50, 250, 500ppmに設定した吸入曝露実験を行った。曝露により、野生型、CYP2E1-null型ともに肝細胞の変性が観察された。また、DMAC曝露後の尿中のDMAC、N-methylacetamide(NMAC)、Acetamideを測定した。野生型では尿中のNMAC、Acetamideの濃度が濃度依存的に上昇した。また、酸化ストレス防御遺伝子群のHO-1、NQO1-mRNAの発現量が濃度依存的に上昇していた。一方、CYP2E1-null型ではDMAC、NMAC、Acetamideの濃度が濃度依存的に上昇していたが、HO-1、NQO1-mRNAの発現量には変化がみられなかった。また、野生型と異なり代謝能が欠損しているため一部のDMACが肝臓で代謝されず尿中へ排泄されていると推察される。DMACの代謝にはCYP2E1を介した経路が存在するが、その他の経路によっても肝細胞の変性に関係する代謝物が産生されるのかもしれない。今後、代謝能の違いと肝障害の発生について検討を行う予定である。
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