先行研究では、ソーシャル・キャピタルが豊かな地域に住む個人ほどこころの健康が良好であることが示されてきた。こうした知見を踏まえて次の課題は、地域の予防活動にどのようにソーシャル・キャピタルを活かして行くかという論点の明確化である。そこで、当該研究課題では、ソーシャル・キャピタルと他の変数との関連(組み合わせ)に基づき、抑うつに及ぼす影響を実証的に検証した。 解析の結果、地域内の人間関係の特質を意味するソーシャル・キャピタルを良好に捉え、かつ個人が社会的なサポートを有している場合において、抑うつの予防に最も効果的であることが明らかとなった。言い換えれば、日ごろから地域内において信頼関係に基づく関係性を築いていない場合には、社会的なサポートが提供されたとしても、抑うつの予防に対して有益に働かない可能性を示唆していた。 以上の知見は、今後の地域での抑うつ予防のあり方に対して、新たな視座を提起していると考えられる。すなわち、従来の「どのような個人であるか」、または、「どのような地域に住んでいるか」という一方の視点によって議論がなされていた抑うつ予防のあり方を、個人と地域を両軸に据え、その関係性から地域での活動のあり方を提起することができた。 今後は、得られた知見を発展させるため、縦断研究に基づく議論を深めると共に、地域での介入を通してソーシャル・キャピタルが果たす役割と意義を整理していく必要があると考えられた。
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