研究課題/領域番号 |
23790694
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
冨田 哲治 県立広島大学, 経営情報学部, 准教授 (60346533)
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キーワード | 原爆被爆者 / 地理分布 / 直接被爆 / 関節被曝 / 空間生存時間データ |
研究概要 |
放射線被曝はがん等の罹患・死亡のリスクを高める要因であり,その影響を定量的に評価することは重要な課題である.広島原爆被爆者における放射線を被曝したことに起因するがん罹患および死亡のリスク評価は,主に原子爆弾が炸裂時に放出された放射線によ る直接的な外部被曝の影響評価がほとんどであり,残留放射線による外部被曝や放射性物質で汚染された塵や水などを体内に取り込んだことによる内部被曝など,直接被曝以外の付加的な放射線曝露の影響は評価されていないのが現状である.間接被曝に関するリスク評価がほとんど行われていない理由の一つとして,間接被曝による被曝線量を推定することは難しく,被曝線量に基づく評価法では解析することができなかったことが挙げられる.本研究では,被曝線量に基づく従来のリスク評価法に代わる新しい評価法として,被爆時所在地毎にがん等による罹患・死亡のリスクを評価する方法を開発し,広島原爆被爆者コホートデータに適用することで新しいリスク評価法を確立した. 平成24年度は死因を固形がんに絞り,がん死亡危険度の年齢依存性を導入して広島原爆被爆者のがん死亡危険度の地域差を解析を行った.解析結果から,広島原爆被爆者における死亡リスクの地理分布として,爆心周辺の同心円状に分布するリスクと,北西の郊外地域のリスクが認められた.線量による調整後もなお爆心周辺の距離依存性のあるリスクは認められた.この結果は,爆心周辺において線量では説明ができないリスクがあることを示唆するものと考えられる.また,相対的に高いリスクが推定された爆心地の西から北西の郊外領域は,黒い雨などの放射性降下物による内部被曝の可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画の概要は,死因をがんに絞って解析することである.ただし,白血病は放射線曝露から罹患に至るまでの時間が他のがんに比べて短いことが知られており,白血病を除く固形がんに関するリスク評価を行った.これにより,がん特有の時間依存を考慮した死亡危険度の地域差の推定をすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの研究を引き続いて行う。平成24年度に実施した死因を固形がんに絞った解析を引き続き行う。放射線を被曝したことに起因するがん罹患および死亡のリスク評価において、初期線量のリスクへの影響を数理モデルに基づき定式化する。定式化されたモデルに基づき、リスクの地域差の時間依存性のモデリングを更新し、適合度指標などを用いてモデル選択を行う。また、初期線量で説明できないリスクがどの程度あるかを評価するかための指標として、爆心からの距離を用いた解析も導入する。直接被爆では説明できないリスクの原因として考えられている付加的な放射線曝露(放射性降下物を含んだ黒い雨、誘導放射線、内部被曝など)との関係について、広島大学原爆放射線医科学研究所の管理する原爆被爆関連図書などの資料や、広島市などが行った黒い雨の降雨領域に関するアンケート調査などの結果を参考にした検討も引き続き行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に引き続き円滑に研究を進めるために、平成25年度は研究費の使用計画は以下のとおりである。消耗品費として、研究に関連した数理統計関連図書や原爆被爆関連図書等の購入費、効率的に研究を遂行するためのソフトウェアを適宜購入するためのユーティリティソフト費、被爆時所在地の電子化作業のためのGISソフトウェアおよび統計解析ソフトの機能追加パッケージのための専門ソフト費、旅費として、研究に関する情報を収集するための国内旅費および研究成果を発表するための国内旅費および外国旅費を計画している。また、最終年度にあたって、研究成果をまとめた論文に対する英文校正費・論文投稿費・論文印刷費などの諸費用の使用を計画している。
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