研究課題
エンドセリン1(ET-1)は1988年に柳沢らにより発見された血管内皮由来の強力な血管収縮作用を持つペプチドであり、高血圧症、肺高血圧症、血管リモデリング、急性・慢性腎不全、慢性心不全などの各種の慢性循環器疾患及び心腎連関と深いかかわりをもつことが示唆されている。腎不全との関係については急性腎不全時に血中ET-1濃度が上昇し、その回復期に低下することが報告されている。またラットを用いた腎動脈の虚血再灌流の実験において血流再開後のGFRの低下に対しET-1の中和抗体を投与すると、GFRの改善が認められたという報告もある。しかし、欧米を含めても急性及び慢性腎不全の患者を対象とした横断研究や動物モデルを用いた報告に限られ、ET-1は腎不全悪化の予知に関連するか前向きな疫学的調査研究は未だない状況である。この田主丸検診の中で我々は1999年に実施した検診において1452名の男女住民に血漿ET-1を測定し、ET-1は早期腎障害と関係しているという結果を横断的研究により報告した。また同検診で1999年時をベースラインとして正常血圧であった1261 人の検診受診者を対象に、血漿ET-1と高血圧発症との関連について7 年間の縦断研究を施行した結果、血漿ET-1濃度高値は正常血圧者において高血圧の進展に関連があることを報告した。さらに前回の大規模検診時から10年が経過する2009年に田主丸町の同一地区で大規模検診(約2000名)を行っており、eGFRの測定により、腎機能悪化に対して血漿ET-1がどのように関連しているか否かを多変量解析を用いて分析し、ET-1高値者に対する治療法にまで言及することを検討を目的としている。現在対象者全員の予後調査を無事終了することができ、データ整理および分析を行うことで、ET-1は腎機能悪化と関係していることを解析するのみである。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の主な研究計画として、「1999年の住民検診受診者1920名において血漿ET-1 を測定した1452 名に対し、現在の健康状態、内服薬の有無、癌の発症の有無、高血圧発症の有無、脳・心血管疾患の有無、肝・腎疾患の有無などを確認する手紙を送付し、返信された手紙をもとに、検査・治療を受けた病院・医院からの情報の収集、カルテの閲覧を行い、医学的裏付けを元にデータの信頼性を高いものとする。返信されなかった対象者には直接電話や訪問による調査を行う。また物故者については家族やかかりつけ医に協力を仰ぎ、その死亡時期と死亡原因を特定する。」である。予後調査は終了した状態である。
研究施設:久留米大学医学部内科学講座心臓・血管内科に所属する疫学研究室にて主たる研究を遂行する。これまでの検診のデータの保存や保存血清なども当研究室にて保管されており、データーベース化している。研究母体である福岡県久留米市田主丸町でおこなう住民検診は、町の公民館を利用させて頂き住民検診の設備や機材を搬入しておこなう。一般住民を対象とした検診を効果的に行うためには、対象となる地区(田主丸町)の行政機関との連携や協力が必要となる。我々は田主丸町総合支所に働きかけることにより、検診を行うだけでなく、健康教室の実施などにも積極的に参加し、行政及び住民の理解を得る努力を行う計画がある。地元医師会に対して検診結果の発表や講演会を行うなどして、これまでに対象地域との良好な協力体制を確立している。さらに、予後調査を遂行するにあたっては地元の医師会の協力も得られているため、推進対策は万全な状態である。
平成24 年度は得られたデータを基に解析を行う。解析方法としてLogstic 回帰分析、重回帰分析を含めた単及び多変量解析を行う。統計はSAS を用いて分析する。さらに本研究成果について学会発表を行うとともに、論文を作成し、疫学的に確かめられた新たなエビデンスとして報告する。住民検診:福岡県田主丸町にて、平成23年度と同様に大規模住民検診の未受診者、特に平成11年の検診受診者を中心に可能な限り電話などで連絡をとり、個別に検診を行う。報告:解析から得られた結果をもとに、血中ET-1 濃度と腎不全との関連性について解析を行う。さらに得られた疫学的結果について学会発表を行うとともに、論文を作成し新たなエビデンスとして報告する。解析:平成23年度と同様に、上述の内容について疫学的解析を行う。経年的にサンプル数を増やすことにより、信憑性が高まることが予測される。
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