研究概要 |
呼吸器感染症の原因病原体は多く報告されている。しかし、同一検体中の多項目病原体に関する実態把握の試みは、ほとんどおこなわれていない。本研究では、特にウイルス性呼吸器感染症に焦点をあて、臨床検体中の多項目呼吸器ウイルス遺伝子検出、複数年にわたる継続的な調査をおこなうことで、各呼吸器ウイルス流行状況の把握、共検出ウイルスの解析(年齢別における共検出ウイルスの割合、共検出ウイルスの組み合わせ)を目的とした。 具体的には、2010年1月~2011年12月の期間に採取された6歳未満の乳幼児呼吸器感染症由来 1,044 検体について18の呼吸器ウイルスについて調査をおこなった。その結果、891検体(85.3%)から1,414 のウイルスを検出した。ウイルス陽性検体のうち、43.5% から複数の呼吸器ウイルス遺伝子が検出された。特に3歳未満ではウイルス陽性検体に占める複数ウイルス陽性検体の割合が他の年齢層と比較して高かった。以上の結果から、乳幼児において呼吸器ウイルス共検出は稀ではないこと、および3歳未満では、呼吸器ウイルスの感染機会が多いことが示唆された。統計学的手法を用いて共検出ウイルスの組み合わせについて解析した結果、アデノウイルスとボカウイルス1型は協調的に、一部のパラミクソウイルス間については排他的な検出が認められたことから呼吸器ウイルス間の相互作用が示唆された。 一方、呼吸器感染症成人男性1名から国内初となるエンテロウイルス104型(EV-104)を検出し、世界で初めてその全塩基配列を決定した。EV-104 の検出は世界的に非常に稀であり、本検出例は、欧州以外では初であった。EV-104は、呼吸器感染症との関連が示唆されており、今後の継続した調査が必要と考えられた。
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