法医実務において、認知機能や運動機能が低下していたと思われる剖検例に遭遇することは多い。脳の特定マーカーの発現量から、生前の脳機能、特に生前の認知機能や運動機能を推測できれば極めて有用なツールとなり得る。そこで脳機能障害に関与すると考えられるユビキチンリガーゼHRD1やParkin等の分子を中心に詳細な解析を行い、これら分子の発現量測定が生前の脳機能の指標となるか展望することを目的とした。 神経芽細胞腫SH-SY5Yに6-hydroxydopamine(6-OHDA)を用いて脳機能障害モデル細胞を作製し、mRNAと蛋白質発現量を検討したところ、HRD1が誘導されることが判明した。さらにHRD1安定化分子SEL1Lも誘導されることが判明した。そしてこれらの分子の上流にあるATF6、XBP1が変化するか否かについても検討したところ、これら分子も活性化することが判明した。これらの結果から、6-OHDA誘発細胞死は小胞体ストレスと呼ばれる細胞死を起こす機構が関与していることが判明した。 また、HRD1分子を高発現させることで6-OHDA誘発細胞死を抑制すること、発現抑制することでその効果が低下する可能性が示唆された。これらの結果から、脳機能障害モデルにおいてユビキチンリガーゼHRD1は脳機能障害の分子マーカーとなり得る可能性が考えられた。 他方でHRD1分子を誘導する薬物をスクリーニングした結果、抗てんかん薬ゾニサミドがSEL1Lの発現を誘導することでHRD1蛋白質量を増加させ、6-OHDAや小胞体ストレス誘発細胞死を抑制することが示唆された。ゾニサミドはパーキンソン病だけでなく小胞体ストレスが病因の一つと考えられる神経変性疾患にも有用であることが示唆され、今後検討すべき課題であると考えられた。
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