研究課題/領域番号 |
23790728
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
三枝 聖 岩手医科大学, 共通教育センター, 講師 (30398490)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 社会医学 / 昆虫 / 法医学 / 法昆虫学 |
研究概要 |
岩手県のように冬期の積雪により昆虫の活動が見られない期間のある地域では,春期に発見された死体が昆虫の蚕食を受けている事例で,昆虫の入植(産卵・産仔,採餌のための定住)時期推定に苦慮する場合がままある。その原因は,1.秋期と春期の死体の腐敗分解過程や死体に入植する昆虫種が類似していること,2.終期における入植休止,および春期における入植開始の正確な時期が不明であること,3.死体に入植する昆虫の越冬様式が不明であることなどが挙げられる。そこで,着衣したブタ屍をヒト代替モデルとして晩秋期から冬期を経て春期まで留置し,腐敗分解過程と晩秋期に入植した昆虫の成長過程を継時的に観察し,晩秋期と春期の鑑別について比較検討した。実験終了時のブタ屍の腐敗段階は腐朽期であり,春期に留置を開始したものとの鑑別は困難であると思われた。死体昆虫相について,双翅目は晩秋期と春期で類似しており,大型から中型のクロバエ科が早期入植候補であった。また,越冬様式は抱卵した雌成虫個体で越冬するものと,秋期に入植後,孵化・成長し,大型幼虫の状態で越冬していることが示唆された。鞘翅目は晩秋期にはみられず,春期にはケシキスイ科成虫を認めるものの,正確な入植時期は不明であった。現在のところ,双翅目の第1入植が晩秋期か春期かの明確な鑑別点は明らかではないが,双翅目の春期入植開始時期の把握と,死体を蚕食している幼虫の成長段階を詳細に検討することで,鑑別可能であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最も重要な目的は早期入植双翅目種の入植時間帯を把握することである。これを実現するために,屋外留置したブタ肉片を継時的に観察し,入植,すなわち双翅目卵や幼虫が観察された場合,ブタ肉片を回収し,同時に新たなブタ肉片を留置する。回収したブタ肉片は小型飼育容器に入れ,研究室に設置されているグロースチャンバーにて構築した環境で飼育して,羽化した成虫の生殖器形態から種を同定するという方法を考案した。しかしながら,この方法による採集が予定通りに進行していない。採卵/幼虫のためのブタ肉片は回収し,そのまま飼育するための飼料も兼ねているため小型にせざるを得ないが,小型であるがゆえに臭気の発散が少なく産卵あるいは産仔のために飛来する早期入植双翅目の抱卵雌成虫を誘引する力が弱くなってしまうためだと考えられる。また,本学矢巾キャンパス敷地内に設定した本実験の実施を予定していた区画場所が,予定外の他目的に転用されてしまい,第3者による干渉(実験装置へのいたずらや,昆虫の離散や攪乱)の可能性が危惧されるようになったたため,代替地を検討せざるを得ない状況になった。現在,医学部法医学講座の協力を得て本学矢巾キャンパス敷地内に代替地を決定したので,実験区画に用いている視覚的遮蔽のための構造物(4m×4m×2m)およびブタ屍留置用大型動物ケージなどを現在設置している場所から,代替地へと移設する準備を整えている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
産卵・産仔のために飛来する早期入植双翅目雌個体のブタ肉片への誘引と,実験を実施している季節における死体の腐敗進行過程の対照とするために,食肉用ブタ屍(体重約15kg)1個体を屋外留置し,その近傍で,ブタ肉片を用いた採卵/幼虫実験を実施する。ブタ屍の屋外留置は6月末および10月末から開始し,並行してブタ肉片を用いた双翅目の採卵/幼虫実験を実施する予定である。この実験により,ヒロズキンバエ,ホホグロオビキンバエ,センチニクバエ,オオクロバエ,ホホアカクロバエ,ケブカクロバエ,フタオクロバエなど,これまで本学矢巾キャンパス敷地内で確認されている温暖期および寒冷期の第1入植種候補となる早期入植双翅目種について,入植時間帯の把握を試みる。また,飼育している双翅目は昆虫種同定の指標となる成虫個体の生殖器のみならず,各成長段階の画像を実体顕微鏡デジタルカメラ等にて撮影する。これらの実験から各早期入植双翅目種の入植時間帯,入植(活動)時期,形態,成長速度など,法昆虫学的による死後経過時間推定に有用であると考えられる多くの基礎的データが得られることが期待されるが,それらをまとめ,各早期入植双翅目種のプロファイル作製を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在,光量不足から観察に苦慮している実体顕微鏡について,観察効率を向上させ,かつ,鮮明な画像を撮影するために必要な照明装置を購入する。ヒト生活圏における早期入植双翅目に主眼を置き,本学矢巾キャンパス内にてブタ肉片留置による双翅目卵/幼虫採集実験を実施するが,6月末および10月末に食肉用ブタ屍1個体を屋外留置し,双翅目抱卵雌個体の誘引および実験期間中の腐敗進行過程の対照とし,その近傍にブタ肉片を留置する方法にて,双翅目卵/幼虫の採集を実施する。採集した昆虫の飼育容器・飼料(ブタ肉片)および昆虫標本作製用試薬,および標本作製用品は適宜購入する。また,気温・湿度・気圧等の環境測定用データロガ―およびデータロガー用の充電池,撮影画像やデータロガにて収集したデジタルデータ保存用大容量ハードディスクをはじめ,デジタルカメラ記録メディアなどを適宜購入する予定である。分子生物学的昆虫種同定のほか,晩秋期と春期に共通してみられる同種双翅目の入植時期(晩秋期/春期)の相違について鑑別が可能か否か検討するために,分子生物学用解析試薬を購入し,昆虫活動がみられない冬期間に分子生物学的解析をおこなうこととする。
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